2015年1月6日

 

Z432 71A3分割 γ7

 

このところZ432やハコスカGTR系のS20エンジン用ミッションのオーバーホール依頼が増えています。このエンジンには71Aの3分割ミッションか、魔法のほうきでもアップしたケンメリ用71B2分割のどちらかの選択になります。

 

 71A3分割はポルシェサーボシンクロ部品を含めすでに補修部品が絶滅危惧種、枯渇寸前にありものすごく厄介ですが今回も引き受けました。

 

これらの車種のオーナーはやはりメカ好きの方が多く旧車の維持のやり方、修理の中身と事情が良く分かっている人達が多いです。いわゆる”粋な人達”です。こんな車の時はこちらもなるべく後々の事まで考えて手入れするようについついなってしまいます。同じ旧車乗りでも車種によってオーナー個性があるていど似ていて、分類できるなと思うことが良くあります。

 

でもこの世界で現代車と同じ考えかたで、完璧を求められると正直対処のしようがないです。

旧車を長く維持してゆく環境を考えると”粋な人達”に増えてもらいたいものです。

 

 

さて、グチが長くなりましたが画像は1速です。毎回同じような画像ですが、私としては扱ったミッションのそれぞれの記録画像ですのであとで大事になるときがありますので記録しています。悪しからず。ギヤとしては舳先(ドグティース)はすこし丸まりあるかな程度で上の部類です。

 

 

同じく2速


通常は三日月状のブレーキバンド2枚は流用します。これは回転しているわけでは無いですが、まれにかじりが入っている場合があります。その場合は虎の子在庫と交換か磨き補修をします。

ハブとスリーブです。

ハブ(3角形)のツノの部分がスリーブがスライドしてきますので全部のカドを丁寧にほんの少し面取りして、シフト時引っかかる危険を防ぎます。丸いスラスト面にはやすりで筋を入れて潤滑対策します。


スリーブも同じく3か所の溝部分の周囲全部を面取り仕上げます。舳先はまあ良い状態です。まれに内周の歯が欠けている場合があります。

同じく3速

メイン人プットシャフト=4速の図です。


舳先は良好


ベアリングももちろん交換してゆきます。

フロント部が完成です。

そしてリヤ側の5速バック部分ですが今回ここに特筆すべき部分があります。71A3分割に適合するこの可締め溝(ネジ部の三日月状彫り込み)付のメインシャフトと可締め帯付M38ロックナットシングルです。つまり71Bと同じ仕様です。

かなりレアですね。

そして今回もM38ナットにロックネジを追加しています。これで可締め溝+ロックネジで71B以上の緩み止め対策です。

71Aでこの対策をしているものは初めての1台だと思います。


シンクロ舳先とシンクロリングおよびギヤ歯面の様子。


拡大写真を撮りたかったので載せてみました。

ギヤ部アッシー完了



BR 0.08 0.08 0.14 --- 0.04

EP 0.15 0.15 0.05 --- 0.22


3速のエンドプレイが少なめですが、問題ないと思います。

シフトフォークを組み付けていきます。

このシフトフォークは71Aではまったく鬼門だったらしく、ほとんどのミッションが爪部がひどく摩耗しています。

詳細は技術情報その2 で見れます。

 

私はこのシフトフォークを1-2速用については3点支持タイプに変更しています。そのままでは取り付けできませんが、画像の様にスプリングピンを取りなおせば可能となります。スプリングピンは4φから5φに拡大して強度アップします。

組み立ての為にケースを準備しますが、このケースは画像の左斜め下部分にタガネかドライバーを打ち込まれた凹み跡が入ってしまっています。もう2mmほどしか平面が残っていないところがありとてもこのままでは使えそうもありません。なぜこの様にしてしまうのでしょうか?これがプロの仕事ではないことを願います。 それにしてもどうしてもドライバー打ち込むならせめて上側の方にして欲しかったです。それならある程度オイル漏れの危険を回避できるのに・・・・。


このケースにはもともと紙パッキンに加えて液体パッキンを塗りたくり、さらにその外側合わせ目にゴム状のこーキング材で漏れ止めをしてありました。

仕方なく左側の虎の子のケースの在庫を引っ張り出してきました。こちら側に交換していきます。

リヤエクステンションも組みました。

ベアリングを取り付けますが、このベアリングの裏側の受けはスナップリングだけです。ですからこの後スプライン付フランジパーツを組んでナットで締めつけるときにあまり締めこむと向こう側へズルむける可能性があります。ここはスラストはほとんど受けないので軽く締める程度で良いと思います。そしてそのためにナットはすり割りタイプになっていて、割りピンで固定するようになっています。

組み付け完了


今回の場合ミッション交換込みで依頼されましたので、交換準備に入ります。


ミッション交換時に同時にやっておいた方が2度手間にならない部品達を集めます。今までのクラッチ系の交換履歴は判らないとのことで心配なところは全て交換してくれとの依頼なので、○メアリさんから仕入ます。


フライホイール+クラッチプレート+ディスクのキットは今回初めてS20エンジン用としてφ215からφ225に変更してリリースされたもので、タイプcのスタンダードタイプをチョイスしました。これで、今後クラッチディスクの選択肢が増えるので、心配がいらなくなります。

あと、強化フライホイールボルト

   ボルトロックワッシャー

   メインシャフトが刺さるところのニードルベアリング

   レリーズベアリング

   ニスモ強化ミッションマウンティング




これで準備完了でいよいよ明日載せ替えです。

依頼者が積載車でやってきます。



新しいクラッチキットの中で気になるところがあります。

左側が新、右が純正ですが 新の方には歯根元の逃げが加工されていません。

かなりの違いなので心配ですが、○メアリさんからは過去からずっとこの形状でしたとのことでした。


2015年1月10日

 

いよいよ現物車両がやってきました。

z432です。リヤゲートのエア抜きスリットでもわかるように前期車両ですね。

 

相当レアですが個人所有の個体を引き上げてきたとのことです。ボディーは奇麗な状態で最近再塗装されたような印象を受けます。

交換作業に入ります。

手前は準備した71Aミッション オーバーホール品です。

 


どんどんと分解してゆきますが、とんでもないことに遭遇しました。

なんとミッションとエンジンを接続しているボルトがこの画像の様になっていました。

びっくりです。


本来は4本のM12ボルトで接続ですが、この個体は画像の3本でしか固定されていませんでした。さらに画像の左端の1本は長さを合わせる為でしょうかスペーサー代りのナットを間に入れ込んであります。


信じられない様相ですが、これは実録です。テレビでいろいろな実録映像を見ますがこれは旧車乗りに対してはかなり強烈な実録画像ですね。エンジンとミッションが3本のボルトでいい加減に締められているだけなんて・・・・・。

フライホイールまで外しましたがやはりクランクシールも逝ってます。


プレートを外してクランクオイルシールの交換に入ります。

今やらないとこの後オイル漏れがさらにひどくなると交換は2度手間になる可能性がありますので今のうちに交換です。

さて、さくさくと組み付け完了したのですが、またまた問題が・・・・。


最後の最後にセルモーターが組み付け出来ない状態になりました。あとこれだけなのに。無念!




ミッションからクラッチキットからセルからすべてS20用で間違いないですから最初はそんなことないだろと思い原因がわかりませんでした。


今までと大きく異なるところはフライホイールですが、やはりそれが問題でした。左のセルが外したセルですが、右側フライホイールに差し込まれる部分がピニオンガイドが張り出しています。これを前に出てきた○メアリニュータイプフライホイールと見比べてみますと、どうもこの部分が干渉するようです。フライホイールが大径化するときにリングギヤの向こう側へフランジが余波でせり出している部分に当たります。


それでこのセルが純正では無いものが付いているのかなと思ったのですが、調べてみるとこれが純正です。

 ”空飛ぶZ432”の遠藤さんに調べてもらって手持ちのセルの情報をいただきましてさらにはっきりと確定できました。

さあ困りました。今回は日帰りミッションン交換パターンですからオーナーはずっと積載車ごと待ってくれています。


手持ちのセルを全部ひっくり返して探し出します。

L型用はやはり支柱付タイプでだめ。


画像下側のDR30用は支柱が無いですが長すぎてS20エンジンのブローバイデバイスに干渉します。


結局だめでオーナーには空の積載車で帰ってもらうことになりました。2度手間になってしまいますが、実は当初他にも手を入れたいところが有るという含みがあり置いてゆく可能性も話していましたが、旧車にはこういうことは付きものと快諾していただきました。”粋な人達”ですね。


そして探し出したのがこれです。

S20用でハイパワー1.7Kwというもので、アルミボディーがシュンとしていてかっこいい一品です。


かなり新しい世代のもののようです。



取り付け面は遊星ギヤタイプです。支柱はありません。


今まで付いていた純正セルモーターはピニオン歯面カドがつるつるに摩耗していたので有る意味交換は時期だったかもしれません。


画像が少し前後しますが、

 

上記のセルで無事取り付け完了して試乗にまでこぎつけました。交換前は2速4速でガゴーガゴーと言う感じの唸り音でいまにも壊れそうな酷い異音がしていましたが、もちろんそれは治っています。シフト感も良いですし、71A特有のポルシェサーボシンクロがかかる音が心地よいです。

 

ミッションについてはこれで完了ですが、この車体はほかにもマフラー吊ゴムやサスペンションブッシュ類がものすごく消耗しており、この際その部分も手を入れるべくさらに進めることとなりました。



コンプレッションロッドのインシュレーターゴムウレタンに交換。



スタビリンクゴムは深いヒビがあり千切れる寸前。



スタビライザー関係のゴムブッシュはすべてボロボロですので交換。ウレンタンブッシュのリプレイスキットにはスタビリンクは1セットしか入っていませんで、追加でもう1セット購入が必要でした。標準s30はリヤスタビはないですから当然でした。



リヤスタビリンク





リヤサスアーム根元のブッシュ、全周ひび割れていて薄くなっていて金属同士がこすれる寸前です。膝の軟骨すり減り状態。


 

交換してゆくのですが、右側アームのブッシュは前後共に固着していて全く取れません。ここはゴムでくるまれているので引っ張ろうにも掴むところが無く、しかも根元側のフランジはアームと一体ですからプーラーもかかりません。で仕方なくブッシュの金属カラーをグラインダーで皮一枚まで削ってタガネで割り切ります。反対側は手で軽く抜けたのに対して、こちら側はアームごと外しての作業となりえらい違いです。10年くらいで定期的に交換してればこんなことないんですがね。



なんとかクリアーできました。


 

このデュアルマフラーの吊ゴムですがどうも千切れてしまったようでボルトで補修して有りますが、これではステーを介してボディー直結になってしまっています。しかも右側はうまく付かなかったのか、ボルト固定をあきらめています。


外してみるとこんな風です。




このように他の車種(今回はマーチ)の吊ゴムを使ってブラケットを再生してゆきます。固定ボルトの中には金属カラーを探し出してきて入れてありますのでがっちり固定できます。




     その2に続く