2018年11月3日

L型エンジンのレストア

このL型エンジンのレストアを依頼されたので、自分用の魔界エンジンとともに並行して進めます。

 

 フルチューンのこのエンジンですが240ZGでなぜかオーバーヒートしてしまうという持病がある様です。どこが原因なのかはわからないのですが症状は似かよったお悩みを時々耳にしますが、その症状は普通に流して走行しているうちは水温は安定しているのだが少しエンジンに負荷をかけた走りを始めるとあっという間に水温が100度を超えるというものです。    

 これとほとんど同じ現象を訴えていた車がこちらでやはり240ZGでしたが、この車では対症療法的にはオーバーヒートを封じ込めたのですが根本原因は不明でした。

対症療法とはGノーズの中に完全な箱型となる導風板を設置してフロントから取り入れたエアーを全部ラジエターに導くようにするというものです。その途中にあるオイルクーラーとかCDIボックスとかは全て移設してしまいます。それでオーバーヒートは防げるのですがではなぜこんなにしないとオーバーヒートするのかは分かりませんでした。

今回は同様の240ZGのエンジンのレストアを含めてエンジン側に何か根本原因があるのかを探ります。フロント外観としてはレーシングプーリーとダイナモ・電動ファン化、リヤ側ではOS技研のメタルツインストリートマスターという構成です。

ターボのヘッドカバーが付いていますがターボではありません。

ハイカム、ポート拡大加工、バルブはビッグバルブ、バーニアスライドタイミングギヤ

ヘッドをはぐりました。

ピストンは異常なしで煤の付き方も通常の感じですし、ヘッドガスケットにも漏れ跡などは見られずきれいな状態です。

フロントカバーのラジエターホース接続部を除くと変なものが見えるので分解してみます。

見えた変なものはこのブリキがくしゃくしゃになって固まっているような物体でしたがドライバーで突っつくと最中の皮のようにぱりぱりと取れていきました。ウオーターポンプの渦巻き羽自体は問題なく残っていますので冷却水の流れは問題なかったと思われます。この最中の皮は冷却水の中の不純物が固まった物だと思います。

ヘッドをチェックしてゆきますが、まずはカムホルダーを外しますが画像上側のカムホルダー足のところの固定ボルトが内側3か所止めてありません。こちら側はヘッドボルト共締めになるので大きな問題ではないですがあまり良い事ではないでしょうから、後から修正しておきます。カムホルダーの底面には高さ調整用のスペーサーが入っていましたが、面研分を補正したと思われます。

バルブ系を取り外しました。インレットバルブ傘径46φ長さ119mm、アウトレットバルブ傘径38φ長さ119mmのビッグバルブです。

リテーナーはオフセットリテーナーですが、チタンでは無いようです。

燃焼により炭化物がかなり堆積していますが、これはもちろんガス吸入抵抗になります。

バルブは全て首元が細いウエストバルブタイプ

バルブの突き出しはIN、OUTともに44.0mm

スプリングシートは24枚すべて1mm

ヘッド厚は106mmでノーマル108mmに対して2mmの面研がされています。

燃焼室側

アルゴン盛で作られているフルチューンです。

かなりきれいな状態で、冷却水通路を通路穴からあちこちから入念に調べてみたのですがその範囲で何の異常もなく通常よりきれいな状態です。吹き抜けの跡のようなものも一切見られません。

ヘッド燃焼室容積を測りますが私はこのようなものでやります。燃焼室は周囲にグリースを塗りその上にアクリル板に小さな穴をあけた板を張り付けます。

そして容積目盛り付のこの試験管に灯油を画像のように先ず20cc入れますが20ccでこんな深さになりますので結構見やすいです。ここからスポイトで灯油を吸い取りアクリルの小さな穴から燃焼室に灯油を満たしてゆきます。20ccがすべて無くなったらもう20cc汲み取り、同じようにアクリルの穴から燃焼室に流し込んでいってアクリルの内部に気泡が見えなくなったら満杯です。気泡が変なところに行ったらヘッドを傾けて穴に導き埋めます。満杯になったところで試験管に残った灯油の容積を40ccから引けば燃焼室容積が測れます。高精度とは言えませんが身近にあるものである程度の精度で測定が可能です。

結果

燃焼室容積

 1番   2番   3番   4番   5番   6番

37.0 36.5 36.0 37.0 36.0 37.0

測定誤差もたくさん有りますが平均で36.6ccです。

 

それにしてもアルゴン盛りした燃焼室をこれだけの精度で整形しなおすのは簡単ではないと思いますので、これを造ったチューナーは相当の腕前といえるでしょう。

 

このヘッド画像についても多くのノウハウが見て取れます。スキッシュエリアを除けばほぼ半円形のヘッド形状。バルブシートからヘッド面へのテーパー状のつなぎ方。プラグ両サイドのデッドスペースのつぶし方・バルブシート当たり面の幅の均一でそれでいて無駄の無い適切な当たり幅とその後のポートへのつなぎの角度の鋭角形状・見ていくときりが有りませんが、純正と比べると画像左右方向の幅はだいぶ広く86mmから89mmへのボアアップ分を有効に使ってバルブの左右方へのガス流入通路の確保拡大をしています。(純正はバルブすれすれしか空間がありません。)全体的にはすごくシンプルで表面積が少なくなっている印象を受けます。

シリンダー側のボアを圧縮比計算のために簡易的に測定してボア φ89.04

 

ストロークは83.0mm LD28クランクで

      排気量は3100cc通称L3.1

 

ヘッドガスケット厚 1.4mm

 

ピストン突き出し 0.5mm

 

バルブリセス容積 3.4cc(カタログ値)

 

以上より計算するとヘッドボリュームは36.6+3.4+ヘッドガスケット分5.6=45、6cc

圧縮比は(516+45、6)/45、6=12.3

 

使用しているカムがいくつか判明していないので確定はできませんが仮に77度くらいのカムだとするとこの12.3の圧縮比はほんのちょっと高めの値、カムが82度ならほんの少し低めの設定とは思いますが、いずれにしても極端に圧縮が高いと言えるほどの値ではないです。

(最初少しピストンストロークの計測を間違えました。オイルパン剥ぐって測りなおして確認しました。) 

 

エンジンスタンドにセットして反転しますが、このエンジンはこの部分にミッションとの接合を強化するブレースがあることが特徴で、これはF54以降に見られる加工ですがN42でこのブレースが取り付けできるのは珍しいと思います。またブレースの形状と材質も鋳鉄製でがっしりしていてF54で見るアルミのブレースよりずっと強度が有りそうです。

プロモデットのオイルパンを剥がします。

このアルミオイルパンはリブをたくさんつけて平面のアルミ肉厚を薄くする工夫をしていて重量が非常に軽いです。

クランクが見えてきました。

フロントカバーは普通の状態です。

私的にはウオーターポンプのエンジンへの冷却水を圧送する側のこの通路の形状が気になります。今新品を購入するとこの楔状のでっぱりは形成されていなくてもっと薄い鋳物バリのようなものが付いているだけです。これはかなり冷却水の流れを抑制する物体となりますがどのくらい水流を減衰するかというとそれほど大きく邪魔になるものでもないようにも思います。しかし、今L28用としてこのフロントカバーを購入するとこの邪魔板はついていないことを考えると、たぶん無用の長物と思います。

カムチェイン関係の部品です。問題ありませんが、チェインテンショナーはストッパー付の方が良いと思います。

3点セット。問題ありません。

オイルストレーナーは中間にストレートパイプを割り込ませて溶接で位置調整されていますのでこれで良いと思います。

クランクキャップボルトはすでにM12ボルトに変更加工がなされています。正しい進化だと思います。

コンロッド小端は周方向の線キズがかなり目立ちます。何とか使えるレベルと思います。

ピストンを全部外しました。

ピストン・コンロッドともにタートルリアル製です。

チェックしてゆきます。

電子天秤で重量をサブアッシー状態からパーツ毎まで順番に測定してゆきますが、少し問題が有ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

測定結果このようになりましたが、きれいに揃っているとは言えない状態でした。

#1はそもそも刻印が無い状態で入っていて重量が+20g

#5も刻印が無く重量が+24g

#6は刻印は1なのに6番に入っていました。

 

この21gの重量差は致命的な気がします。レーシングエンジンの場合コンロッドは5g以内が目標ですから悪くても5g以内にする必要があります。21gを肉を削って調整することは無理だと思います。1gは水で言うと1ccなので1cm角ですが鉄は比重が7.5なので2.5mm角の鉄のサイコロを21個取らなければなりません。

 

タートルリアルのカタログからするとすでにカタログに無いパーツなので補修用在庫を調べてもらうしかなさそうですが果たしてちょうど良い重量のものが有るかどうか。

 

スカート部にはそれ相応の縦キズがかなり見られます。ほとんどは再使用は傷をハンドワークで磨いて何とか使用できるかなのレベルと思います。

 

中でも一番かじりの大きかった4番ピストンでこの状態ですがかなりひどいです。磨いて使えるとは思いますがどの程度まで再発せずに運転できるかは微妙なところです。

シリンダー側もかじり傷がかなり深く入っています。これは4番の左右方向(ピストンピン直角方向)

1番についてはなぜか前後方向にも縦キズが有りますが原因は不明です。(ピストンピン方向)

2番シリンダーにはこのような模様が有り、表面に何かついているのかと思って拭き取ろうとしたのですが取れなく、どうも内部から来ている模様の様です。何かの溶接修理跡?

ピストンクリアランスについて

シリンダーの左右内径とピストンスカート下側8mmのところでの測定径で比較しています。

 

シリンダーについては前後方向がボーリング時の径だと思いますが加工狙い径は+0.01というところでしょうか。

 

ピストンは6番が少し小さい様ですが摩耗したのかもしれません。加工狙い径はー0.01でしょう。

ボーリング初期はピストンクリアランスは0.02~0.03狙いだったのではと類推します。

 

現状で気になるところは

・シリンダーが前後左右で0.02~0.03いびつになっており摩耗がある様だ。

・ピストンクリアランスは鋳造ピストンとしては0.03狙いと思うが、全体的に摩耗拡大してしまって特に6番が0.082と大きすぎる。

 

 

 

コンロッドとクランク小端のクリアランス

 

表のように平均では少し大きめですがだいたい良い値ですが、2番が0.074と大き目です。

 

メタル表面の摩耗程度は再使用できる感じです。

クランク側を見てゆきます。

キャップを外しました。

キャップは無残な状態で、メタルがほとんど消失して地肌が出ています。特に#3~#5当たりの中央部が激しく摩耗しています。

 

んーーん。再使用は無理でしょう。

クランク側はというと目で見て段差が見れるくらい摩耗しています。これは再使用しようにも対応できるメタルがあるかどうか難しそうです。

 

ここまで摩耗するには相当運転時間が長いか、油圧やオイル種類やメンテナンスの問題があったのかもしれません。

ほとんどの気筒でこの様に周状に摩耗傷が何本も入っていますが、焼き付かなかったのが不思議なくらいです。

 

 

 

 

 

ここまでで分解チェックは一応終了しましたので、これからどのように修理組み立てしてゆく方策を練ることとなります。

さらにだんだんと分解チェックしてゆきます。