S20エンジンご用達、R192デフのオーバーホール

ハコスカGTR Z432 Z432R ハコスカGT S30Z 

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その11

2019年2月26日

R192デフオーバーホール  R6

 ハコスカGTRをレストア中というオーナー様から

このR192デフのオーバーホールを依頼されました。外観はしっかりしていると思います。

R192も球数が極端に少なくなっており、レストアも難しくなってきました。

このオイルプラグ出口については何らかの理由で小径プラグに交換されていますが機能的には問題ないです。

R192はサイドフランジの保持の仕方が特徴的です。

先ずはトータルイニシャルトルクを測ってみますが

30.3kg/cmもありました。規格が12~17ですから大幅に過大です。これで走っていたのなら焼き付いていても不思議が無いくらいの値です。

キャリア側 ギヤは40/9のギヤ比4.444

ハコスカGTRに多いギヤ比です。

 

バックラッシュなどについては測定不能と判断して測りませんでした。

サイドフランジをはずします。

薄いシムはバックラッシュ調整に必要ですがすでに製廃ですので、私はこの時のために数種類の板厚で復刻製作して、販売もしていますので必要な方はどうぞこちらからご連絡ください。

 

サイドフランジ外した状態でプリロードは22.7㎏でまだ過大です。逆算するとサイドフランジプリロードが8㎏(規格は2㎏)あったことになりますのでこれまたすごい値です。

LSDを取り出しました。リングギヤボルトロックプレートが残っているのは珍しいと思います。

裏側

LSDについては後でイニシャルトルクを測ってから分解修理とします。

フロントフランジを取り外した後のピニオンだけのプリロードを見るとまったく負荷がありませんでした。わけわからん状態ですが、どこか変なところが当たって抵抗が出ていたのでしょう。また、ピニオンについてはガタが大きすぎで、おそらく分解していない摩耗したままの状態か、ディスタンスシムの選定不良と思われます。ディスタンスシムもすでに製廃で入手困難ですのでこちらも同じく私は復刻製作しています。

LSDのイニシャルトルク測定

こんな時このブレードタイプトルクレンチは重宝します。

プリセットでは何回か測定しないと値が出ないし滑り出す前の微妙な感じが分かりにくいですね。

4.5Kgと出ましたがまずまずの値と思います。純正指定値は2~5Kg(使用プレート時)

LSDを全バラ

プレッシャープレートの中でこの2枚は外周側に少しかじり傷が有りますが、他のプレートはOKでした。この2枚についてはやすりで修正して使うことにします。

ピニオン側を分解しましたが、R192はピニオン左側のロックナットがダブルでしかもデフキャリアーの中にもぐったところにナットがあるので分解組み立てが非常に難しいです。

 

また画像下段左側のピニオンフロントベアリングは特殊ベアリングで入手困難で、私は懇意のベアリング屋さんである程度製作してもらいましたが在庫はわずかです。販売もしていました。

ピニオンベアリングですが長い間交換しないで使い続けるとこのような摩耗痕が出来てきてデフ特有のうな異音や断続音などの症状になるのだと思います。

組み立てに入っています。

LSDを組みましたが、イニシャルは6㎏ほどありましたが、使えばすぐに4KGぐらいに落ちると思います。

このサイドベアリングもあるにはあるのですがやはりレアパーツなので私はやはりこれも独自のルートで入手しています。

 

ところでこのベアリングの取り付けですが画像のように一番外周のローラーベアリングの保持器(鉄板製)がベアリング本体より少し出っ張っていることが分かります。これを良く見ないでベアリングの上に鉄ブロックあてがって打ち込んだり、また反対側を打ち込むとき机の上にこれをこのまま反転して置いて打ち込むとこの保持器が変形するということが起こりますのでご注意です。

かなり端折っていますが、とにかくすべて組み上げてバックラッシュとリングギヤの平行、プリロード、そして大事な歯当たりを画像のように確認しますが、この正転側は根本側に当たりがずれていてNGです。

 

この場合はまたすべて分解してピニオンギヤの出入りをスペーサー調整ですが、この場合スペーサー減でピニオンを外周側に少し(0.05mm)引っ込めます。

またすべて分解しました。画像左下側が私が復刻しているピニオンフロントベアリングです。

もう一度組みなおして確認でこのように良い歯当たりが得られました。

こちらは逆転バック側でこれも良い状態です。

 

さてこのように歯当たりは良いのですがピニオンをひっこめたことで今度はバックラッシュが大きめになってきますので、今度はサイドベアリングのシム(これも製廃ですので私は復刻販売しています。こちら) を少しずつ板厚を変えて規格内に入るように調整ですが今回は 0.14~0.17に入るように調整しました。リングギヤ振れは0.04以内

プリロードは ピニオンが10.6kg

サイドベアリングが

 

最終組み立てに入っています。バックラッシュ測定、リングギヤ振れ確認です。

ここで少し注意事項ですがこのデフの場合この部分に手で持っているスペーサー厚み5mmを入れないと不都合がありOH時は無くさないようにしなければなりません。フランジの仕様が違うのかどうか良く分かりませんでした。

完成です。


2019年10月1日

このほとんどスキのないGTRを30年来保有するオーナーさんがデフの調子が悪いということでご来訪です。試走では私が初見で感知できるほどの不具合は見いだせなかったのですが、常に愛車に接するオーナーさんは敏感にその不具合を察知します。しばらく乗るうちに私にもオーナーさんが感知しているところがなんとなく見えてきました。

日取りも決めてデフの下ろしにかかります。

今ついているデフはこのハコスカ2DRに相性が良い4.8減速比の4ピニオンということで、交換ではなく今車載のこのデフそのものを修理したいということで、通常だとこのままリフトで一か月余りを過ごすことになるのですが、オーナーさんはその間車に乗れない、車屋さん側はその間リフトが使えないし保管のリスクも大きいということなるのですが・・・・。

今回はそれらを一挙に解消するデフ貸し出し方式で行きます。私の方で貸し出し用のデフを準備して本日はこれと交換して走れる状態に復元する日帰り方式です。

このデフはR192の減速比4.1の2ピニオンですがこの貸し出し方式でオーナー様も異なるギヤ比のデフの感触を試すことができます。

取り外してゆきます。

アルフィンデフカバーが付いているのですごく大きく見えます。

貸し出しR192を積み込んでいきます。

この後乗せ換え完了して試走に出ましたが、オーナーさんは今までのデフとは全く違い不具合は消えているとの感想でしたので、今までのR192デフにはやはりどこか不具合があることは確定となります。

 

 試走のあとそのままご自宅まで300Kmあまりを戻られていきました。

外したR192の修理に入ります。

私の追跡記号で イーザンデフR8 となります。

 

先ずは一番の基本となるプリロード=テーパーベアリングの隙間ですが、自作の測定器でプリロード計測不能と出まして、つまりテーパーベアリングが隙間が出来てガタガタの状態となります。(この隙間は手でゆすってガタがあるかどうかの意味ではなくエンジンの大トルクがかかった時の動きのことです)

バックラッシュを測ろうとしたのですがこれもばらついて測定不能で、手でゆすってもどこがラッシュかわからないほどメリハリがありません。

 

正転がわ歯当たりはかなり刃先に当たりが寄っておりピニオンが逃げている=ベアリングが摩耗していることを示しています。

 

逆転側も同じ傾向です。


サイドフランジの挿入部分ですが、こういうところを見ると組んだ人の様子が見えてきます。

片側のフランジを固定しておいて反対側のフランジを回すと画像のようにケガキが1.5mmほどずれるほどガタが有ります。感触的にピニオンメイトギヤのガタなのではないかと思います。

分解が進みます。

サイドフランジのシムがフランジ成型されています。どうやって入っていたんだろう。

また左側のサイドフランジには2枚のシムだったのに右側はこんなに5枚もはいっていてしかもそのどれもがよれよれ、まともにクリアランスが出せない感じです。これらのシムはすでに製廃なので使いまわし使いまわしてこのようになってしまうのでしょう。それにしても何で右側にこんなに詰めたのか・・・バックラッシュが大きくなりすぎてしまうはずだが・・・・。

 

 私はバックラッシュ調整でこの最も大事なR192サイドシムを復刻して販売していますので使ってください。欲しい方はこちら  ヤフオクでも売ってます。

右側サイドフランジベアリングレースにはこの2か所の深いダコンがある。

LSD全バラ

4ピニオンです

プレートは6枚構成

イニシャルトルクは5Kg/m

ピニオンを全バラ

 

ピニオンリヤ 相当減っている おそらく一度も替えていないでしょう。 ダコンも目立ちます。

 

こちらのピニオンフロントはもっと摩耗が顕著だ。もう面がざらざら荒れだしている。融着摩耗に近い感じ

このテーパーベアリングも製廃で入手は困難

そこでこれについても私は復刻製造してもらっている。

欲しい方は同じくこちら ヤフオクでも


組み付けに入っていきます。ピニオンベアリングを交換してプリロード調整、今回はかなり高めを目指してゆきますので、調整シムを0.05mm薄くしています。これでプリロード20kGとなります。ダブルナット締め合わせで18kgくらいに落ちると思われます。

LSDの組み付けに入り、各部を測定します。まずはこのケースの幅なんですがそれぞれの掘り込み深さを測定して合計すると87.70mmです。

このケースの内幅部分にこのサイドギヤがぴったりと入るはずなんですが、この測定で84.5mmと出ましたので、ここから機械的に計算すれば上のケース幅に対して3.2mm隙間がある状態ということになります。そんなことないだろうと何回も測りなおしたのですがやはりこの状態で間違いないようです。もしそうだとすると4つ有るピニオンメイトギヤと噛み合うピニオンサイドギヤはフリクションプレート類が入っていない状態や厚みが少ない場合は、この隙間分遊んでいることになります。今まで普通に走行していたんだからそんなことないでしょと思うのですが、測定上はこうなっています。正確にいうとLSDが作動していない状態ではプレッシャーディスクのばね力でプレッシャーリングによって押し込まれているのでその力の範囲内では押えられていてガタは出ませんが、ピニオンシャフトのカムがプレッシャーリングを押し開いたとたんにガタが発生しているはずです。その時はフリクションプレートがロックしてLSD全体が一体化しているので走れることは走れているのでしょう、この時点でとにかくサイドギヤは遊んだ状態になっているはずです。

 なぜこうなるのかと考えると純正の2ピニオンのR192はプレートが4枚構成ですが、この4ピニオンR192はプレートが6枚構成になっていて効きをを強化しているのですが2枚増やすためにケース側を加工しているのですが何らかの理由でその時にこのサイドギヤに純正で付いているスラストワッシャーを取り外してしまったのではないかと思います。ただ純正ノーマルのこの部分の隙間規格値は0.3~0.56と非常に大きいのでいっそのことスラストワッシャをなくしてしまえの考え方なのかもしれません。

この画像でもサイドベアリングがケースに全く当たっていないことが明白です。一段へこんだところの外周側のてらてらに光っている部分はフリクションプレートが当たった跡で、その内側の丸くほんの少し出っ張っている部分が本来サイドギヤを受ける部分ですが全く当たった形跡がないです。純正2ピニオンではここに焼き入れワッシャーが入っています。

そして分かりずらいかもしれませんが純正4枚構成R192では本来はこの部分の周りは出っ張っていてスラストワッシャーを位置決めするようになっているのですが、6枚プレートにするためにその周りの土手を削って面一に加工したのでスラストワッシャーの位置決めが出来なくなったので取り外したのではないかと思います。

 ほかのデフについても調べてみたのですが、サイドギヤをスラスト受けしているものといないものがある様で、それはプレッシャープレート類がケースに対して隙間0~0.2以内というほとんど密着した状態で組まれるのでそれに押されているサイドギヤもその範囲以上は遊ばないからということの様です。R192・スバルR180はワッシャー有り、日産R180はワッシャーなし・ニスモR180ワッシャーなし

 しかし、今回ののデフではプレッシャープレート類が薄く1.5mmも動く状態になっているので、このような場合は問題が出ると思います。ワッシャーが有ればこのように何らかの事情でプレッシャープレートが薄くなったときに救ってくれる保険的な要素があるかもしれません。

 

 

今まで無かったんだから、また初めから無いデフもあるんだからそのままでもいいかなと思ったサイドギヤのスラストワッシャー、やはり製作することにいたしました。

ケース側にも掘り込み加工をしてワッシャーを固定します。

 

両ケース共にスラストワッシャーを純正と同様に復元しました。右側のケースは奥行きが深いのでワッシャー取り付け穴の段差掘り込み加工が難しかったけど何とかやります。


LSDケースの中にLSDプレート6枚を組んでいきますが、今までプレート隙間設定が0.9mmもあり標準値0.3mmに対して0.6mmも甘かったので画像ニスモのフリクションプレート(0.2mm厚い)と入れ替えて隙間調整してゆきますが、隙間は0,3mmとします。

 

この状態でLSDイニシャルトルクは7kgと設定できました。今回は街乗り主体なのでUターンなどでバキバキ言わない大人仕様のLSDとなります。

 

 

リングギヤも組み付けてLSDゾーンは完成

デフキャリアに取り付けて歯当たり調整

画像は正転側 何回かピニオンスラストワッシャーを入れ替えてこの状態にしてゆきます。

今までピニオンベアリングを交換した時はピニオンがリングギヤ側に押し出される傾向が有り、ほとんどがピニオンスラストワッシャーを薄めに替える必要が出ています。

歯当たり 逆転側

少しトー当たり傾向ですが許容範囲と思います。

リングギヤをキャリアに組んでバックラッシュ調整

この時サイドベアリングに必ずプリロードがかかっていることが必要で、順番的にはまずプリロードをシム調整で決めてから、左右シムの交換入れ替えでバックラッシュ調整となります。

 

ピニオンプリが15.7k

サイドベアリングプリ 1.5k

バックラッシュ 0.12~0.14mm

となりました。

今までの状態から全てまたバラバラにしてオイルシール類を取り付けて本組に入ります。(オイルシールの回転抵抗があると正確なベアリングプリロードが測れないため)

 

これで完成です。

いよいよ上記のフルレストアR192デフを載せ替えに入ります。オーナーさんが遠方より朝早く到着で、ご一緒に載せ替え工場へ向かいます。ジムニーの荷台にはR192で巣を積んでいます。

 

工場へ到着しました。

これはいままで貸し出していたR192の状態ですが、これからオーバーホールしたオーナー様のR192 4ピニオン 12枚構成LSD 4.8ギヤ比 へ戻してゆきます。

 

右側ドライブシャフトのタイラップは前回たまたまバンドが無いことに気が付き仮止めしたところで、今回金属製バンドで正式にやり直します。

載せ替えが終わり試走に出ます。

このところ試験に使っている近所のスピードウェイ

 

全開走行です。

全開走行

オーナー様はオーバーホール前まで気になっていたところはすべて直っていると言っております。いままで何回もやり直しても治らなかったところが治ったと言っています。

また全開走行

 

貸し出し品のR192デフはギヤ比が4.1であったため、正規の4.8に戻ったことで、ミッションがクロスギヤであることもあり、発進加速が全く気持ちよくなったとのことです。

 

 R192デフ その4に続く

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