2022年5月23日

71A オーバーホール 

 SR311のミッションで5速とバックが入らなくなった、1-4速は普通にシフトできて走れるという状態です。今回は5速-バックのシフト不良の修理をして欲しいというご依頼です。

ミッションを分解していますが、オイルは墨のような真っ黒になっています。

この時点ですでにこのようなものがドレンプラグのマグネットに吸い付いています。これは明らかにギヤの中に入っているニードルベアリングです。

さらに見ていくと中からこんな鉄片が出てきます。何でしょう。

 

後から見ていくとこれはM38ナットの緩み止めのワッシャーであることがわかりました。

ここまで来てわかりました。71Aミッションによくある典型的なメインシャフトのM38ナットの緩みによる5速ギヤの抜け落ちが起こっています。横に筋になって見えるスプラインは本来見えないはずです。ナットは緩んでねじから外れ後ろのベアリングまでずれて止まっています。シンクロ舳先は完全にギヤのスプラインから脱落していますので、5速にシフトしようとしても入らなかったのは当然です。

 

そしてもっと悪いことにここが緩んでこの状態で回転運転していたわけですのでメインシャフトがスラスト方向に動くと1速~4速にまで影響が及び、特にメインインプットと3速の間のクリアランスが保てなくなり、ぶつかるようになります。また各ギヤのスラストクリアランス=エンドプレイが過大になり、駆動ONOFFのたびにギヤがスラスト方向に激しくたたかれるため最終的にはスラスト面がカジリ焼き付きを起こします。

5速ギヤを外しましたが、中にあるニードルベアリングは画像のように脱落しています。前に出てきたドレンプラグに付いていたニードルベアリングはここから出てきたという事がわかります。

抜けてしまったシンクロ舳先は子のスプライン部に押し込まれていたのですが、修理としてはもう一度押し込みなおすという事になりますが、うまくスプラインを押し込めるかどうかはかなり難しい作業になります。

5速のカウンターギヤ

M38ナットが緩んだことで、5速のメインギヤのシンクロ舳先が動いてきてここと干渉したためがりがりになっています。シンクロ舳先はここと干渉したために5速ギヤのスプラインから抜け落ちてしまったわけです。

拡大するとこのようになっています。

ここはこのまま組むと盛大な異音が出ることになりますので、このまま使うならハンドワークで変形部を修正することになりますが、普通の状態のようには戻せません。一応走行はできるという状態にはできますがそれもどれくらい寿命が持つかは全くわかりません。

これは脱落したシンクロ舳先です。本来は5速ギヤとスプライン勘合しているものですがこのように脱落しています。

この状態で回されているのでいろんなところと干渉して側面はこのようにボロボロです。一応形はとどめているので表面を慣らして使えないことは無いですが、これもそのあとの寿命はどうにも判断できないです。

そしてこれは5速と噛みあうスリーブですが、脱落した5速のシンクロスリーブとガラガラ叩き合ってしまったのでボロボロになっています。

その拡大画像ですがもっとも重要なシンクロ舳先と噛みあう部分がこのように丸まってしまいさらにがりがりに削れてしまっています。

これもこのままでは使えないのでこれで修理するならこのカジリ部を砥石で修正仕上げすることになりますが、もちろん機械仕上げした当初の形状に戻すことは難しいですので、何とかシフトできるという状態に修理するしかないです。

 

今回はM38ナットが緩むとこんな風になるという典型例のようになりましたが71Aでは多発する現象で

す。

・単純オーバーホールでは今までの破損個所をハンドワーク修正することになります。

・ご要望によりますが5速メインとカウンターギヤとスリーブをセットで中古ではありますが良品と交換することも可能ですがそのパーツ代が発生します。

・M38を絶対に緩まないようにするために5速の裏にスラストニードルベアリングを構築するオプションを私は考え出していますが、この場合はフルオーバーホールになるし、バージョンとしてスペシャルバージョンとなり費用も掛かりますが、これにすればM38ナットの緩みの心配は一掃できます。

これはバックアイドラーギヤですがやはり摩耗して本来は三角形状であるべきところが削れてほとんど平面になってしまっています。ここも砥石で修正することになります。

オーナー様とご相談の上、破損部分については交換する方向で進めることになりました。

 5速ーバックのスリーブ

 

こちらがドナーの中古良品在庫から探し出したスリーブ

 

破損したスリーブ


左がこれから取り付けるドナー5速メインギヤ

右はシンクロ舳先が抜けてしまった5速

左がドナーの5速カウンターギヤ

右は側面がガリガリに削れた破損ギヤ

バックギヤはハンドワークで修正します。

中央左側の1歯がハンドワーク前のバック歯 ガリガリとなって削れて変形していますが、その隣の歯はハンドワーク修正しています。

 

組付けに入っています。

大きな6角ナットが今回の破損の元凶であるM38ナットでこれが緩んでしまったわけですが、その前にあるワッシャーは今回復元したもので今までのワッシャーは脱落してミッション内部からグチャグチャになって出てきましたので、復元製作したものを使います。

 これでM38を目いっぱい締めこむのですが、これで純正どうりに復元したわけなんですがこれではまた緩まないという保証はありません。なぜなら今回こうなったからなんですが、もっと確実に緩み止めをするならやはり私の考え出した、5速裏スラストベアリング構築とM38サイドロックナットの2つのスペシャルオプションをするのが確実です。

ギヤ組付けが完了してギヤ精度の測定に入っています。

 1ST  2ND  3RD    5TH

エンドプレイ

0.02 0.13 0.32ー--0.08

バックラッシュ

0.09 0.18 0.17ー--0.12

 

バックラッシュは良い値ですが、エンドプレイが1STが過少、3RDが過大となっています。回した感じでは一応回っているので稼働はできるとは思いますが、今回は1-4速については対象外というお話しとなっていますのでこのままでゆくことになります。

1STのシンクロ(画像下側)は金属地肌が出始めていますので、無理なギヤチェンジをするとギヤ鳴りが出ていたと思います。

 2速のシンクロは今まで交換メンテしていたのか良好な感じです。

3RDのシンクロ(画像中央)も金属地肌が出つつあります。これだと無理なギヤチェンジをするとギヤ鳴りする場合が出ていると思います。

今回交換したパーツとなります。

オーバーホールの場合は、交換パーツは追加費用となります。

メインシャフトリアのボールベアリング1個はボールが割れているわけではないのでそのまま使えなくもないですが、このベアリングだけはどうしても回転の感触が悪く使う気になれず交換しています。

完成して回転試験機にかけています。

問題ないようです。

SR311 71AはS30Zの71Aよりさらにデザインや質感が独特である意味高級感があります。特にセンター部分の鋳物リブが独特できれいです。


2022年7月26日

71Aスペシャルγ37

SR311用71Aのスペシャル化となります。

オーナー様のご依頼としては2速が不調というものです。

先ず外観的にスピードピニオンが殺してあります。分解して後からわかるのですがミッション側のギヤもついていませんでした。つまりスピードメーターは使っていなかったようです。よくレーサーの人たちはスピードメーターは付けない場合があったと思います。タコメーター見てればまあ速度はわかるんですけど。これはこのままで良ければそれでもいいんですが、復活させようと思えばできるチャンスなのでご希望次第となります。

エアブリーザーが何か特殊なものに付け替えられています。取り付けが不完全なのでここもオーナー様のご希望次第ですが、ちゃんとしたものに修理できるにはできます。

セルモーターの取り付けタップですが一応ネジは残っていますが少しボロボロ欠け始めている感じで微妙なところです。このままでも行けそうな感じではあります。

そしてここもネジがまずいことになっています。クラッチオペレートの取り付けタップが片方舐めてしまったのか随分と大きなサイズのネジに替わっています。このサイズだとヘリサートも難しそうです。後で調べてみます。

さて本題に入ります。

ミッションギヤを取り出しました。

大まかにはすぐにわかるような破綻は無いように見えます。

71Aの鬼門のM38ナットの緩みですが、こんな感じで緩み止めしてあったので緩みは無かったです。

5速ギヤを取り外すとこんな感じになっています。

矢印の部分は理由はわかりませんが溶接されています。前週にわたって溶接の跡が見られます。スラスト面は微妙ですがかじり付きにまでは至っていませんが、このままでは無理なので後で磨くことにします。もちろんもう新品部品は出ないので、交換するにも中古部品を探すしかありませんので、今までこれで問題ないならこのまま手直ししておきます。

バックギヤですがガリガリの真ッ平らとなっています。これではバックシフトでガリガリなったと思いますがシフトできるにはできていたと思います。ここは後からハンドワークで修正することになります。

5速ーバックハブの5速側スラスト面ですがカジリがあります。焼き付きまで行ってはいませんがその1っ歩手前の感じです。これも中古良品に交換の手段もありますが、この現物を磨けば何とかなりそうなレベルではあります。私は71A、71Bの中古品はかなりの量持っていますので探し出せないことは無いのではありますが、その辺も費用に影響してきますのであまり高額費用とならないよう何とか直せるならそのようにしてゆきます。

メインインプットのシンクロ

まだ末期症状までは行っていないですがすでに賞味期限の山を越えて70%まで来たというところでしょう。

3速シンクロです。これも使用レベルとしては60%~70%というところです。ポルシェシンクロは一般的な使用状況で約5年でその生涯を閉じます。

1速です。

これは比較的良好です。

使用度30%というところでしょうか。

問題の2速です。

思ったよりシンクロの劣化は進んでいませんが、やはり全体的に金属地肌が出てきているかなというところです。

ここはメインシャフトの2速ギヤのスラスト受け面ですがかなり焼き付き的なカジリ跡が見られます。こちらのほうが問題は大きいかなと思います。磨いて修復できるかどうか。

組み立てに入ります

この中で気を付けなければならないのは左下のリテーナープレートの上にある丸いシムリングです。

71Aはここにこのシムリングが入ります。71B以降はこれが解消されています。このシムリングはオイルでいろんなところに付着してしまうので、ベアリングと一緒に捨ててしまったり、逆にセンタープレート側に張り付いていて知らずにもう一枚入れてしまうなどのミスが起きやすいです。

問題の2速ギヤからシンクロリングを取り外した状態です。ここにZのようなマークがついているパーツが2個ありますがこれがシンクロリングのつっかえ棒のような働きをしてサーボを起こしますが、私はこのZマーク付きはまじめてみたような気がします。ほとんどは三菱の様なマークがついている場合が多いです。

2速のシンクロは表面はともかく張力が弱くいわゆるへたったような感触を受けました。2速だけでなく全ギヤ分が同じように張りが弱いと感じました。全部交換しても良いのですが今回は問題のあるという2速のみ交換にとどめます。なぜならポルシェシンクロの新品は部販で15800円/1個するからです。4個変えるとそれだけで60000円です。

新旧比較

右が旧シンクロですが色目が黒っぽくシンクロ材の溶射もまだらになっていて品質感が異なります。左が今回交換するポルシェシンクロで金色っぽい色をしていて、シンクロ材の溶射が均一できれいです。さらに大きな違いはこの切り口の幅ですが旧シンクロは明らかに幅が狭いですので、この分シンクロ作用時張りが弱まることになるのでシンクロ作用が低下すると思います。左の新ポルシェシンクロリングのように幅が広いと張力が強くシンクロの効きは良くなると思いますが、使いはじめはシフトが固くなる傾向にあると思います。これで明らかなようにポルシェシンクロのシンクロリングは少なくとも2種類(これ以外にはあまり見ませんが)存在すると思います。製造メーカーの差なのかもしれません。大きなメーカーは重要な部品は必ず2社以上に発注してリスク回避をしていると思いますのでその結果なのかもしれません。

組み進めています。

ほとんどの場合何らかの破損が見られるハブとスリーブですが今回は比較的新しめで問題は無かったです。途中で交換されているのかもしれません。

メインインプットのカウンターギヤの裏側が何かとこすれた跡がありました。当たるとしたらメインインプットのシンクロ舳先ですが・・・。現状では何かが当たるようなものが見られないので以前問題が出て直したところなのかもしれません。

フロント側は組み立て完了

リヤ側でカジリの見られた5速ハブは磨き修正しましたが、まだうっすら筋状のカジリが残っています。

ガリガリだったバック側のスリーブもギヤ舳先を削りだして創成復活させています。バックシフト時丁寧にシフトすればこの状態を維持してゆくことができると思います。ガリガリバックに入れるとしまいにはこのスプラインが欠け飛びます。

5速のスラスト面の溶接跡も磨きなおしました。ここを溶接した理由として考えられるのは、過去に5速のシンクロ舳先の抜け落ちを経験しているのではないかと思います。71Aで最も多かった故障で、メインシャフトのM38ナットが緩んで5速が後ろに下がってしまい、カウンターギヤの側面にシンクロ舳先がこすられて抜けてくるというものです。M38が緩む最大の理由はM38と接している5速が左回転(ねじを緩める方向)して常にネジを緩めようとしているからです。71Cでは最終的にはM38ネジを逆ねじに変更しています。 従いまして今回のシンクロ舳先の溶接は起こっている現象をそのまま対処しているにはいますが、対策しては的外れと言わざるを得ません。

そこで今回も私の考え出した71Aの救済策、「5速裏スラスト」仕様に改造してゆきます。(オプションです)これによりM38ナットを緩めようとする力はほぼ消し去ることが可能となります。

また画像で見てわかるようにM38ナット自体にもこれも私の考え出した技「サイドロックボルト」でナットの完全回り止めをします。(M38ナットのスカートカシメも併用しています)

シフトフォークはこのように摩耗してしまいます。シンクロスリーブが傾いた状態で無理にシフトしようと押し込むとこのように摩耗していきます。ひどく無理をするとハブの角が折れたり、シフトフォークが折れたりします。

これが通常の71Aのシフトフォークですが、見てわかる通りスリーブを180度のバランス点で押すことができていません。

スリーブの傾き対策で私がやっている方法がこの3点支持フォークにしてゆく方法です(オプション)、これなら3点でスリーブを押すのでスリーブが傾くことを防げます。今回は1-2速のシフトフォークをこれに交換してゆきます。3-4速も3点支持にすることができます。(オプション)

ギヤ部分が組みあがりました。

ギヤ精度

 

エンドプレイ

0.08 0.21 0.10 ー-- 0.18

バックラッシュ

0.08 0.08 0.0  ー-- 0.07

良い値ではありますが1か所だけ3速のバックラッシュが感じられませんでした。手で回した感じではそれほど詰まっているようには感じられなかったのでこれで行きます。今までの実走行でも3速の不具合は伝えられていませんし、直したくてももはや71Aのカウンターと3速ギヤは入手が難しいです。

今までついていなかったスピードギヤを復活します。

71Aの特徴であるこのリヤエクステとシフトコントロール部分です。この時代では機械ものにオイル漏れはつきものという考えだったらしく、オイル漏れ対策は脆弱です。

私はシフトロッドのスライドする部分はこのようにオーリングを2重なるように改造しています。これはかなり効き目があります。

シフトコントロール(左右の振りをコントロールする部分)についているプランジャーピンはSR311系

では左のようになんのオイル止めもないただの棒ですのでオイル漏れ放題ですので、私はこれを右のようにオーリング付に改造します。実はS30Z系の71Aは最初からこのオーリングがついていますが、それでも漏れが出る場合があり、その場合はここのオーリングを2重にします。

片側がネジが舐めてちぐはぐとなったオペシンの取り付けネジ

ヘリサート打ち込んで何とかなりました。少しネジが緩くはなっています。

天狗の鼻、ゆるゆるで手で抜けてしまいました。

しかもこの部分が全周溶接されています。過去に鼻もげがあったのだろうか。しっかり溶接されていますのでこのままいきます。

この部分のオーリングは左側のわずかに太いオーリングに交換してゆきます。この部分のオイル漏れも71Aでは頻発する現象です。

最後に回転試験しています。

シフトは問題ないですが、シンクロリングを新品にした2速はやはり少しシフトが重い感触はありますが、だんだんとこなれていくことでしょう。

完成です。