2015年6月3日

71A初代のオーバーホール

 

今回は71A初代ミッションとなるSR311用

ミッションのオーバーホールを依頼されました。

 

これが71B・71Cの元祖となるミッションですね。とうとう源流に行き着くわけですね。

 

新潟の5ナンバーSR311のオーナーからオーバーホールのご依頼をいただきました。S43年式ですので47年前の個体となります。また、ナンバーは1桁 の5ナンバー。良く47年間5ナンバーひと桁受け継がれてきたものですね。

SR用なのでフロントケースの様子が異なります。セルモーターの位置がやはりL型とは正反対。

シフトリンケージの部分は後世のものと同じで有るようです。

この部分に少しオイル漏れが見られますね。

上側はフェアレディー用の71Aですが、90mm長くなっているようです。足長さんになって、かっこ良くなりました。センターケースにもリブが追加されていてますますゴージャスですね。


でもバランス的には初代の方が良いかもしれません。何の制約もなく初めから設計したらこのサイズなのでしょうね。

センターケースのサイズはどちらも176MMで同じで有るようです。

ケースを分解してゆきますが長年の垢が堆積してこのようにヘドロの様になっています。


フロントケースのシムは上下ともしっかり入っていました。

これはコントロールアームの部分ですがこんな信じられないような色合いです。

ピンはやはりこの世代の標準でオイルシール無しのやつでした。これではオイル漏れしますね。


ここはこの後の世代でオイルシール付に設計変更されました。

この部分はこのインパクトでも緩まないくらい強烈に固着していたので、奥の手でなんとか緩めました。

ドレンボルトの鉄粉は通常の状態ですね。

ギヤ部分が見えてきました。

後ろ側

バックギヤですがかなり摩耗しているようです。

分解後の画像ですがこんな感じです。

どうしましょう。

もちろん相手側のスリーブもこの通り。さてどうしよう。

分解前の今までのギヤ精度を確認しておきます。

              1st   2nd   3rd   4th  5th

BR 0.10  0.12  0.14  ---  0.20

EP 0.15  0.03  0.35  ---- 0.12


3速のエンドプレイがかなり大きく摩耗しているようです。

1-2速のシフトロッドですがスプリングピン固定穴がこんなに変形してしまっています。しかもピンは中間で半分に折れた状態で出てきました。

1-2速のシフトロッドですがやはり特に右側の摩耗が大きく、摩耗した段が目視できます。

右側です。

そして3-4速ですが同じくシフトロッドの固定穴が変形しています。2か所も有るとこれはすでにメーカー生産時のミスとは考えにくいです。おそらくこのミッションはここ10年以内にどこかでオーバーホールされていると思います。

この3-4速のシフトロッドですが、この世代の71Aの致命的欠陥を明確に証明しています。画像中央部シフトフォークに対してスリーブが傾いたためにフォーク又の中央部に干渉して削れた跡が有ります。今まで何度も見たようにシフトフォークがスリーブの180度位置で押す設計にしなかった為に起こった不具合です。その理由は良く分かりませんが、シフトフォークを共通化しようとした事の弊害で有った可能性を指摘しておきます。

カウンター後端の固定ボルトですが、ネジロックケミカルが使われた形跡があります。これも一度分解された事の証明の一旦であると思います。

これは5速のメイン側ギヤですが、やはりシンクロ舳先(ドッグティースパーツ)がスプライン勘合でなくただの円筒結合で多分圧入か焼き嵌めとなっていると思いますが、これでは何らかの拍子に空回りしてしまうことは十分に考えられます。

 舳先自体は奇麗にとがっていて全く問題ありません。

5速のシンクロリングですが比較的新しいです。摩耗もそれほど見られません。

次に3速ギヤとシンクロハブスリーブです。大きな問題は見られません。

ただこのシンクロリング、見たところかなり変です。当たり面も大きく傾いています。

こちらはメインインプット=4速ですがこのシンクロも当たり面は大きく傾き、しかもシンクロ面にクレーター様の陥没穴が何個か見られます。


どうもシンクロリングの精度がかなり悪いようです。

続いて1速、これも合わせ面が異常に変形しており、しかもやはりクレーターが見られます。

2速です。完全に壊れているレベルです。



5速以外の1速から4速までのシンクロリングは私が今までに何度も見てきた純正品と比べて明らかに差異が有ると思います。見た目で違うのですからかなりの差だと思います。

ちなみにこれは4速のシンクロリングですが、上が今まで付いていたもので下が純正品です。

 合口の幅がこんなに違うし、リングの内径もかなり小さいようです。何なんでしょう、このリングは?

メインシャフトですが3速の受け面にかじりがわずかに見られます。できたら交換が望ましいですが、まあ手に入らないですからダイヤモンドやすりで修整します。

メインシャフト、カウンターシャフトともに振れ曲がりを測定しましたが、この測定では0.000でそれ以上の精度は判らないくらいまっすぐで信じられないくらいの精度です。いままでいろんな71を測りましたがチャンピョンデーターです。どうやって作っていたんでしょう。

少し目先がずれますがこの部分の分解に入ります。

分解しました。オーリング類は完全に弾力を失ってプラスチックの四角断面の様になっています。これではオイルを止めることは難しいでしょう。

そしてこの部分、先の画像でオイル漏れが見られたところですが、シフトリンケージの形状でケース側が凹み摩耗しているのが分かります。これではシーリングは難しいです。そしてここの修復は難しいです。多少のオイル漏れは覚悟必要かもです。

シフトリンケージ分解にあたりこれを抜かなければなりませんでしたが、今までのセコンドシーズン71Aよりもさらに分解が難しかったです。下手すると復元が出来なくなるところでしたが、なんとか切り抜ける手段を見出しました。冷や汗・・・。

とにかくオーリング交換ですが、先ほどの様に受け面が摩耗しているとシールは完ぺきにはできないです。

でも今までの完全に硬化したオイルシールよりはずっと良くなるはずです。


アウトリガー部のプッシュピンが当たる位置はかなり摩耗していますが、このまま行きます。溶接で補修する手も有りますが、鋳物の溶接は上手くやらないと亀裂が入り易く、私の設備と技術では無理です。鋳物は専門の技術者でないと扱いが難しいです。

このスリーブを再度打ち込みます。

スリーブを打ち込んだらこの金属ケース付のオイルシールで蓋をします。でもこの部分をそれほど潤滑する意味があるのかなー。私ならリジッットにしてグリース潤滑で設計すると思います。回転するところではないですから、潤滑オイルが流動する必要ないですね。

そしてコントロールピンの部分ですが、オイルシールの無かったこのタイプからオイルシール付きのセコンドエディション品に変えていきます。

左が従来品、右がセコンドエディション製(フェアレディーやハコスカ71A用)です。

さあ、いよいよ組み付けに入ります。ベアリングは一気にシールドタイプに変更していきます。

一速の部品達ですが、シンクロパーツについては今回シンクロCリングはもちろん交換するのですが、三日月状に見える2本のブレーキバンドも新品に交換します。そしてこの1速ですがなんの変哲もないですが、実は驚くべきことが明らかになります。セコンドエディションの71A(例の足長さんですね)ではこの後、1速のシンクロブレーキバンドは2本から1本に設計変更されます。明らかに原価低減の為だと思いますが、これ以降のポルシェシンクロミッションの1速は全て1本しかありません。つまり片側しかシンクロサーボが効かないということですね。逆に言うとこれをセコンドエディションに付けると改善になるはずですが、ギヤ比などもあり簡単にはいかないですね。



ブレーキバンド=三日月状の板をよーく見てみるとこの画像の様にかなりすり減っているのが見られるからかなり作用上重要なのです。

シンクロCリングもこんなに減っていいます。光っている肌が出ている部分はすでにシンクロ作用をすることはできません。摩擦力が必要なので研磨面の様なピカピカの面はだめです。

セカンドギヤー。 ギヤー自体とシンクロ舳先(ドッグティース)は健全な状態で何の問題も有りませんので、このまま使用で全く問題有りません。


スラスト受け面=光っているリング面にはいつものようにすべてオイル供給処理をしてゆきます。

フロント側は無事組みあがりました。


このあと反対側のバックー5速関係の組み付けに入ります。

 

現状のバックー5速スリーブ

これではバックに入れずらかったはず。

ボロボロに歯欠けしています。

ほとんどのものがこの様になっています。


バックー5速スリーブですが、このように欠けてしまった部分を一歯一歯修整していきます。新品や中古でもいいので手に入ればいいのですが、もう困難です。


完全に摩耗していたバックアイドラーギヤについては手持ちの中で状態の良いパーツに交換してゆきます。

左が従来品 逆アール! 右側が探し出した代替品です。たまたま保存していたものが見つかりましたが、無い場合は困ります。



5速メインギヤですが、前に述べた通りシンクロパーツとギヤはスプライン勘合していません。丸い者同士で合わせてあるだけですのでちょっとして事でズルむけてしまいがちですが、手の打ちようがないので今回はこのまま行きます。現品はしっかりしていて緩みの兆候は見られなく大丈夫そうです。ここを溶接で固定する場合も有るようですが熱ひずみが怖くてとても出来ません。いろいろ回り留めを検討したのですが駄目でした・

5速メインギヤも組み付けM38ロックナットを締めこんでいきますが、今回も新たに編み出した技サイドロックボルト加工を追加していきます。回り止めワッシャーももちろん使用してダブルの対策です。

なぜなら71B71C含めてこのメインシャフトを固定するM38の緩みは71系ミッションの普遍的な欠点で有ったからです。私も今までこの系統のミッションで緩んでいるものを見た比率は結構多いです。

ここは重要とにらんで考え続けて編み出した技がこのサイドロックボルトです。


ギヤ精度


BR 0.06 0.10 0.05 --- 0.08  (基準 0.04~0.14)

EP 0.05 0.15 0.05 --- 0.10  (基準 0.02~0.19)


そしてここからがクライマックスですが、71A系の弱点であるシフトフォークの傾きを払しょくすべく、画像下側の部品に交換してゆきます。


画像下側のシフトフォークはフォーク又中央部にもスリーブ受け面が有り3点支持になりますのでスリーブをすごく平行に押すことが出来るようになります。


いままで71Aでは私自身でも1-2速フォークしかやった例が無いのですが、今回始めて3-4速フォークも3点支持化を実現しました。すごく難しかったです。

ストライキングロッド部のキーボックスもこのように3点支持フォークに変更した後の大幅改造にも関わらず、このように綺麗に整列出来ています。

このあとケースに組んでいきますが、先ずは3分割ケースのセンターの部分です。

画像が飛びますがセンターのケースにギヤアッシーを挿入してからリヤエクステンションを被せます。

 

そのあと画像に見えるリヤのベアリングを打ち込みます。

そして反転してフロントケースを組みますが、この時メイン側とカウンター側とフロントケースのスラストクリアランスを計算して隙間が0.1~0.05以内になるようシム調整が指示されています。が、これがいい加減になっている場合が多々あります。

完成です。簡易試験機、e-zanaraiserにセットしてチェックしてゆきます。振動、オイル漏れ、シフト、スピードギヤ、バックランプスイッチなどをチェックしてゆきます。

問題なかったです。

okです。


2015年6月9日

同じオーナーから同時にスピードメーターのトリップが動かないのでなんとかならないかと依頼されました。どうもウオームギヤが摩耗しているようです。

分解しました。

形式機構的にはフェアレディーと同じなんですが、中身の部品はやはり異なります。

ウオームギヤの部分

メーターケーブルが下側のネジ部に差し込まれて回転していますが、そのすぐ上ドラムの下にトリップ用ウオームギヤがあります。そこから右にシャフトが伸びて、今度はそこから垂直方向にやはりウオームギヤーで回転伝達してその上部でオドとトリップの数値ドラムに振り分けられて回転伝達します。

この年代のは、ギヤ類が全て金属製で出来ています。すごいですね。フェアレディーs30はこれがほとんどプラスチックに置き換えられています。

反対側 左側のトリップリセット機構のギヤでさえ金属製ですね。

今回の不具合はオーナーが言っていたようにウオームギヤが摩耗したことが原因の様です。

ドライバー先端部のパーツですね。

拡大するとこんな感じです。


かなり摩耗していて、相手ギヤに対して引っかからないので、回すと空回りしてしまいます。

このギヤはそもそもこの様にカシメで固定されていて、交換は前提としていません。

 

したがって当然パーツとしては出ていないし、製作も難しいですね。

オーナーと相談したのですが、このメーターに愛着が有るようです。それはそうですよね、いろんないきさつからオーナーのところに5ナンバー一桁で受け継がれてきた走行距離です。なんとかしたいですよね。

実は新品メーターが売り出されていてそれを勧めたのですが、問題外のご返答でした。

そこで、それでもこの様に分解してゆくのがe-zaのやり方です。

 

このように取り出しました。

左側のギヤ部はピニオンギヤが当たり摩耗した痕跡がはっきりと見えます。しかも段付になっていますね。

 

 

お手上げの感じですが、正式に直すにはこの部品を採寸して設計図を引いてギヤ屋さんに製作を依頼ですが、おそらくメーター全体を買える値段と納期になると思います。

 

それでこんなことをします。右側の段付部をずいぶんと左側に削り込んだことが分かるでしょうか。もうバリまでが出ていますね。


シャフトの右側の少し凹んだところが今まで軸受で受けていたところで、摩耗がみられます。

そして左側の部分についてこのようにします。

何をやっているかは良くは判らないかもしれませんが、言葉で説明するのは難しいです。

かなり途中を省略しましたが、組み付けました。最初の画像と比べると走行距離が1kM増えていることが分かりますね。手動でスピードメーターを回転させてテストした結果です。

とりあえずは走行距離が刻めるようになりました。ただどれくらいの寿命が有るかは全く分かりません。1kMでストップする可能性も有りますし、10000kM持つかもしれません。

でも、出来る限りのことはしたつもりです。これで様子を見てもらいましょう。