71A3分割ミッション・FS5C71A・オーバーホール・ポルシェシンクロ・Z432・GTR・SR311・ワーナーシンクロ・240クロス



2020年10月18日

SR311 71Aスペシャルγ31-Wワーナー

SR311はフェアレディーの元祖ですのでいろいろなところにそのDNAが引き継がれている訳なのですがミッションもまさにそうで、S30Zもハコスカも71Aの3分割でケース長さが異なるだけで中身はほとんど同じで、これはミッションが71Bに変わる50年式ぐらいまでの初期・前期フェアレディーに使われているのはこのミッションです。ハコスカもほぼ同じ。とくにS20エンジンのZ432やハコスカGTRは現在でも多くがこのミッションを乗せています。(リーズナブルな価格で他のミッションを乗せる手段がない為。高価なケンメリ2分割ケースを使えば71B、71C自由自在に交換はできるけど、)

この辺の事情もSR311も同じでほぼ他の選択肢が無い状態だと思います。(こちらも現在でも入手できる2分割ミッションケース代替品を使えば2分割71B・71Cミッションにできますが、こちらはラダーフレームへの取り付けにいろいろ改造が必要となります)さらにSR311はミッション交換が上側への脱着しか手段がなく、エンジン・ミッションを一体で脱着することになります。

 というわけで今回はこの71A3分割ミッションを一生降ろさなくても良いように万全のミッションにしてくれとの要望でミッションが送られてきました。

先ずは分解してゆきますが見たところ大きな損傷はないようですし、オイルの状態も悪くはないです。

シフトフォークを見るとやはり爪の部分が斜めに変摩耗しています。71Aの多くがこのようになっていますが、以前より指摘しているようにここは71Aの最大の弱点でシフトフォークがシフトスリーブをバランスよく押していない(180度地点を押していない)上に、重いポルシェシンクロを押すためにこのようになってしまいます。反対側も同じでした。

結果このようにスリーブの3か所に欠けが発生しています。これはスリーブを傾けてスライドさせたためにハブに対して片当たりしたために折れた物です。これでもシフトはできることはできるのですが、いずれはポルシェシンクロリングにダメージを起こすことでしょう。そして折れたかけらはどうなったのでしょう。

欠けたところの拡大

5速のスラスト面もこのミッションの鬼門で、良く焼き付きが起こるところですがこのミッションに関しては5速が比較的新しく見えるので途中で交換されているのかもしれません。

 

オーナー様のご希望でこれらのワーナー化に必要なパーツにWPC加工をします。(画像WPC加工前)

 

WPC加工はショットブラストの一種なので(ショットブラスト加工時特殊ガス雰囲気中で行うことで、ショット玉が当たった時の局部の熱で処理ガス剤を対象の表面に含侵させて改質する。表面を固くすることと、表面を凸凹にすることで表面積を増して耐摩耗性を向上)ので、加工後はこのようにきれいになって来ます。このワーナーハブとスリーブは71A専用で残存数は非常に限られてきました。


メインインプット

左がワーナーシンクロ

右が今までのポルシェシンクロ

このメインインプットギヤは一次減速機構となっており、71Aにも2種類存在し、スポーツバージョン=ハイギヤード、実用車バージョン=ローギヤ比となっており、これを変更すると全ギヤ比が変化しますので(デフのギヤ比を変えたのと同じ様になる)、ここの選択は重要です。

今回はもちろんスポーツバージョンギヤ比にします。

左から3速、2速、1速

現在はポルシェシンクロの状態ですがこれをワーナーシンクロとしてゆきます。

 純正でここもギヤ比として2種類あり特に1速、2速が大きく異なり、71A5速は準クロス仕様のギヤ比となります。(1速が2.9から始まるほぼ240クロスと同じギヤ比となります)

上の画像ポルシェ仕様からワーナー仕様に変更していますが、パーツがなかなか手に入らず探し回って何とか製作しました。時間がかかりました。

1速、2速までのワーナー組

3速、メインインプット=4速まで組みまして、ここまですべてポルシェシンクロからワーナーシンクロへ変更していきます。

5速、バックまで組んでギヤ部は完成です。

今回5速はポルシェシンクロのままですが、ここもワーナーシンクロに変更は可能ですが、バックまで含めて後ろ半分は全部変更になるので費用が格段にのしてしまいますのでポルシェのままとしています。ただし次の画像のように私の考え出した「5速裏スラスト」対策をすることでポルシェのというか71A、B系の弱点であるスラスト面焼き付きを防止する対策をしておきます。

「5速裏スラスト」対策です。ニードルベアリングが少し見えています。(撮影のためにまだ締めこまないで隙間を開けています)M38ナットは加締めタイプでさらに画像に見えるようにこれも私の考え出した技、サイドロックボルトで緩みを撲滅します。

シフトフォークを取り付けました。1速シフトフォークは3点支持フォークオプションでさらにオーナーのご希望でWPC処理しています。

 ギヤ精度

 1ST  2ND  3RD      5TH

エンドプレイ 

0.07 0.19 0.05 --- 0.07

バックラッシュ

0.08 0.05 0.03 --- 0.22

 

3RDのバックラッシュが少な目ですがテストで問題なかったです。

71Aの特徴でこのリヤエクステの部分も問題の多いところです。全バラしてやり直しています。

シフトリンケージ類

この中でもSR311系はこのコントロールピンが右側のようにオイルシールが全くないのでオイル漏れ放題となります。今回左側のようにオイルシール付きに改造してゆきます。(場合によっては2重オイルシールにする場合もあります)

中央付近に見える金属冠の中をシフトロッドが通ってシフトレバーが取りつくシフトブロックと組み合わされますが、シフトロッドがシフトの度に往復するこの部分も71Aではオイル漏れの泣き所です。

 

シフトブロックの部分は今まで金属ワッシャーを適当に入れて組んでありましたが画像のように純正正規のスプリングとベークライトワッシャーを用意して組みなおしています。

このシフトロッドが通る部分のオイルシールは2重オイルシールに改造してゆきます。(通常は1本で構成)

完成して回転試験機にかけています。回転抵抗が少なく滑らかな回転で、チャタリング音も少なく良かったです。

 

外観ケースは純正ママで1-4速ワーナーミッションの完成です。これならボディーフレーム改造することなくそのまま取り付けができます。


2021年1月4日

71Aスペシャルγ32

 古くからのお仲間に、私がどうしても欲しい部品と物々交換でお約束のミッションです。71A3分割 Z432用ミッションのオーバーホール。

 

ミッション内部を取り出しました。

1-2速シフトフォークは段付きに摩耗して元の厚さの半分しかありません。

左側の段はこういう形状ではなくすり減ったためにできた段です。

こういうところを見るとよくわかるのですが、1度開けられているようで、このナットが当時の迷信のようなナットの緩み防止タガネ攻撃されています、が、結果としてこのミッションはこのメインナットが2mm以上緩んでいました。

結果としてこの部分に隙間ができていますので、ガタガタと言っていいでしょう。

これもメインナットが緩んだことでなったメインインプットの底付摩耗です。これではシフトが非常に堅かったことでしょう。

シンクロcリングも摩耗しています。

今やこのcリングは価格高騰しており、日産部品で1個 15800円 4個で63200円

組み付けに入っています。

ピンぼけですが1速はCリングNGで交換します。

2速もCリングシンクロNGで交換します。

3速は現状品は1度交換されているようでほとんど損傷が無いのでこのまま行きます。

 

ここにきて問題が露見しました。メインシャフトの先端の半周ほどが ガリガリにかじっています。これは初めての現象です。

 

ここは精密グラインダーで研磨砥石で修正します。中のニードルベアリングは現象は出ていませんでしたが、無条件で新品交換です。


 

メインインプットのCリングも新しそうです。

 

メインインプットの中を見て先ほどのメインシャフト先端のかじりの原因が見えました。メインシャフト固定のM38ナットが緩んだため前方にシャフトがせり出し、この部分に直接突き当たって荷重を受けていたようでテカテカに光っていますが、この部分でかじり粉などが発生して損傷が広がったのだと思います。


 

その問題のM38ナット、対策として私が考え出している技で対処します。

1)5速裏にスラストニードルベアリングを構築(画像はまだ締めこんでいないのでニードルが見えています)こうすることでM38ナットに回転荷重がかからないので緩まなくなります。もちろん5速のスラスト焼き付きも防げるし、引きずり抵抗が減るのでシンクロ動作荷重も軽減されます。

2)画像に見えるようにM38ナットは2重ナットではなく一体ナットとしてサイドにロックボルトを追加しています。(画像はまだボルト未取り付け)。また画像には見えませんが加締め溝を追加していてナット加締めをして2重にゆるみ止めしています。

ギヤ部を組み付けました。

ギヤ精度

 1ST  2ND  3RD      5TH

エンドプレイ

0.12 0.22 0.13 --- 0.08

バックラッシュ

0.08 0.10 0.05 --- 0.17

 

3速のバックラッシュが少な目ですがまあ良い値です。

 

1-2速シフトフォークは特に損傷が酷かったので、これも私が考え出した技「3点支持フォーク」に代替してゆきます。なぜこれが良いかは形状見ればわかりますね。

 

3-4速シフトフォークも段付き摩耗していましたが程度が軽かったので3点支持フォークにはしていませんが、程度の良い2点フォークで代替してゆきます。


シフトフォーク類を組み付けてミッション内部の組み立ては完了です。(リヤのベアリングはこの後取り付けていますので画像に見えません)

ケースの準備ですが71Aのオイル漏れ多発カ所のリヤエクステのシフトリンケージ部はフルオーバーホールしていきます。ここの分解も簡単ではありませんよ。

 

オイル漏れの大きな原因で有るシフトコントロールプランジャーはオーリングが硬化して四角になっています。

 

 

世間さんではこのオーリングを2重にした対策パーツが販売されていますのでパーツ入手はできますが、私は現状品を2重オーリングに追加工して対処しています。


そしてリヤエクステのもう一つのオイル漏れ原因であるこのシフトロッドの前後する部分、ここも私の考え出した技2重オーリング化で対処します。

ケースに組み付けて回転試験機にかけています。

1速と2速はシンクロCリングを新品に換えたので、どうしても少し硬めのシフトとなりますが、使用するうちにだんだんとスルリと入るようになり楽しめるのですが、5万Kmぐらい走ると寿命となりシンクロが弱りギヤがはいいりにくくなるというのがこの71A3分割ミッションのライフというか宿命のようなところが有ります。