71BコンパチC エキストリウム α27
 2013.12.18

 

今回はオーダーメイド・・です。

某○○ーオークションでご興味を持ってくださった東京のIさんが、オーダーしてくれました。

私としては使ってくれる人が分かっていた方が安心です。なぜなら、どのような使われ方をしてどのような経過を辿っているかが追えるからです。そうでないと、いわゆるフィードバックというものが効かなくなるからです。言っていることはかっちょ良いけど要はなんとなく心配というただそれだけなんですけど。

I様のお車は ケンメリの首都高速仕様足回りを組んでいるということで走り屋さんの様です。

 

以下現在困っていることのメール内容です。

 

【このミッションの近況ですが、5thが入りづらく高速走行時に抜けることもありました。

バック時に、4thとRの間にポケットがあり、そこに入ると抜くのに往生します。

クラッチは、○50kmからの加速時に滑りを感じてました。

クラッチのマスターシリンダーは、以前から室内側でモレがあったため半年前に交換しました。」

1thの噛みこみは、この状況が続いたあとにいきなりおこりました。】

 

また、追加で シフトをクイックシフトにしたいということでここについても検討します。

 


問題のミッションが届いたので早速分解して原因を探ります。先ずシフトは左右には動くが前後には動かない状況です。ギヤが1速に入ったままであることは左の画像のメインシャフト左側の3列あるシフトロッドの一番上が入り込んでいることで確認できます。通常はこれでリヤ側に引っ張れば抜けるはずですが抜けません。それに通常はこのシフトポジションではシフトレバーは左右には動けません。


リヤエクステンションを分解してシフトキーが見えてきました。見たところ普通ですが、このキーの中をストライキングレバーがHパターンで動く訳ですが、前述のシフトレバーの動きから見て、ストライキングレバーが本来の部分を押してからに行くべきものがを置き去りにしての部分へ入ってしまったと思われます。

つまり、矢印の部分をすり抜けたということですね。

これは確か日産がレースで苦労したところだったと思いますが、「シフトの置き去り現象」と言っていた事だと思います。こうなるとAを直接押してやらないとシフトは戻りません。

何故そうなるかというと1速から2速に入れようとしてものすごい力で3速側に押し付けつつシフトするとレバーがキーのメントリ部分に刺さってA側のシフトロッドが撓んで隙間が大きくなりすり抜けるわけです。

71Cではこの対策の為に1-2速のシフトロッドの太さをφ14からφ16にして剛性アップし、さらにストライキングレバーの幅も厚くする変更をしたのだろうと類推します。(違っていたらごめんなさい。でもたぶんそうです)

 

また、Iさんの話で4速とバックRの間にもポケットがあると表現していますがこれと同様のことが起こっていたと思われます。

 

まとめると、シフトロッドとシフトキーの隙間が開きやすくなっていたか、Iさんのシフトスピードにシフトリンケージの剛性がついてこれなかったかのどちらかだとおもいます。

 

 

 

 


また、5速が入りにくかったということですが、ケンメリの71Bは中期のもので1-4速はワーナーシンクロで5速だけがポルシェサーボです。しかもそのサーボシンクロリング(画像 丸い輪ッカ状のもの)はかなり磨耗していますので、シンクロがかかりにくかったと思います。

 

シンクロの減り方としては普通程度と思います。85000Km走っているということですが、妥当だと思います。(シフトの仕方や5速の使用頻度・オイルメンテのやり方で差が出ますが。)


71Bミッション 中期タイプです。1-4速はワーナーシンクロ(金色に光っているもの)です。

シフトフォークが見えますがすごく細く、これで曲がらんのかなーと心配になるほどです。

 

ただ左側バック5速のシフトフォークは削りだし品でお金がかかっている感じです。

1-2速のシフトロッドで、この溝でクリック感を出して位置決めしますが、普通の状態です。


シフトキーの部分です。特に異常は見られません。


シフトフォークですが、これもかなりくたびれていますが、歳相応かな。

 

 

 

 

 

71Cの分解チェック

 

こちらがドナーとなる71Cの原形ですが、この後ばらばらに分解して各部をチェックします。71Bに比べてギヤの厚みが3mmほど厚くなっていますし、シンクロはもちろん全てワーナーでしかも径が大きくなっています。2速3速はダブルシンクロとなります。


シフトフォークも71Bとは比較にならないほど強化されています。

71Cのシフトキーの部分ですが、前述画像の71Bと比較出来ないほどがっしりと強化されています。

 

またスプリングが付いた見なれないパーツは、バックへシフトするときのギヤ鳴り防止の機構です。コンパチ時は取り外します。あまり効果は無かった(このミッションもバックギヤは痛んでいました)もののようです。日産の71系ミッションはこのバックのギヤ欠けにかなり苦戦したようです。(日産だけではないかもしれませんが)

 

バックに入れるとき車が完全に止まってからクラッチをしっかり切ってシフトすればまったく問題ないのですが、せっかちなドライバーはまだ前進中に無理やりバックにギヤを入れようとして壊してしまいます。

 

 

 

 

71Cの組み付け

 

エキストリウムバージョンですから全てのベアリングとシンクロは新品に交換していきます。

パーツ類は組み込む順番や、裏表を間違えたりすると後で組めなくなり、やり直しとなります。

また一見組めたように見えてもミッションとして機能しない場合も有ります。

実際私も最初の1台を作るときは何回も問題が発生してあきらめかけたことが何度もありました。構想から完成まで2年近くかかったとおもいます。

 

全部分解してしまいます。

そしてチェックしていきますが、メインシャフトの曲がりを計っていますが、曲がり0.005mmつまりほとんど曲がりはありませんでした。

 

このあとコンパチ化の為にある加工を実施します。これをしないと不具合が生じます。


2分割ミッションの中央部にあるアダプタープレートですが、これが組み立ての基礎部分になります。

 

ダイヤモンドやすりで示している部分がシフトロッドがスライドする部分ですが、オリジナルではバリが立っているので全周をダイヤモンドやすりで面取りしていきます。

ベアリングを打ち込みなおしますが、左のが今までの71B用ですがオープンタイプです。むき出しなので金属粉があればすぐに噛み込みしてしまいます。 私はこれを対策品として特殊クリアランスのシールドタイプベアリングを探し出していますので、これに交換していきます。シールドタイプは多少のゴミや異物をシャットアウトしてくれます。

 

また、ベアリングクリアランスは何種類(8種類くらいかな)もありますので、どのタイプを選ぶかは重要です。ここはノーマルクリアランスではありません。

 

カウンターですが、これも曲がり測定していきますが、これも測定値はほとんどゼロでした。曲がりはありません。

 

1速ですが、ベアリングやシンクロリングを純正新品に交換していきます。(エキストリウムバージョンは無条件交換です。現状品でも磨耗限度内であれば、そのまま再使用は可能です)

 

下側にある金色のシンクロリング(正式にはボークリング)ですが、左側が今までの71B用でしたが、71Cでは右側の様にサイズが大きくなり作用力が増します。

 

画像は1-2速のハブですがダイヤモンドやすりで示している部分がギヤと接してスラストを受けますが、ここにスジを入れてオイル潤滑を助ける仕上げをしています。通常でも4箇所見える幅広の溝がオイル通路としてありますが、この作用を助ける仕上げです。

 

この仕上げはギヤ側裏表もやっていき、ほとんど全てのスラスト面を仕上げます。

2速ですが、2速のシンクロはダブルシコーンシンクロとなり画像下の右側がそのセットとなります。

下 左側が71Bのシングルシンクロですから、その差は歴然です。

 

 

3速もダブルコーンシンクロです。これも贅沢に純正新品に交換していきます。

 

メインインプットシャフトで、ここがエンジンのクランクシャフトに刺さる部分です。

 

ここのベアリングは負荷が大きいですから必ず交換していきます。

 

ここのシンクロもやはり71Bに比べると大きくなっています。


そして5速ですが、ここはまったく異なります。前述のように71B中期はポルシェサーボ(右側)に対し、左のワーナーシンクロに変更です。

 

71Bの5速はギヤ抜けがあったということですが、71Bはスリーブがかみ合ってくるところ(画像右側の外周のぎざぎざ)が歯スジでストレートに近いので磨耗すると抜けやすいですし、噛み合い量も少ないです。

 

それに対して左側の71Cは同じく外周のぎざぎざが歯スジ方向でほんの少しテーパーを付けてギヤ抜けを防止しています。つまりトルクをかければかけるほどギヤが食い込んでいくようになっています。

 

 

そしてこれが今回初となりますが、バックギヤの新品投入です。

 

左がいままで付いていたものですが、がりがりに削れてしまっています。バックに入れえるときにギヤ鳴りさせた結果ですね。

 

これを、右側の新品に交換するのですが、やっとこの新品の入手ルートを開拓できました。

 

 

 

 

 

 

ギヤ部分は組み付け完了です。

 

精度チェック

 

         1st  2nd  3rd 4th  5th

バックラッシュ 0.13 0.14 0.09 0.12 0.07

エンドプレイ  0.25 0.18 0.22 ---  0.18

 

良好な値です。特にバックラッシュが優秀です。

 

シフトフォークを組み付けます。これは5速ーバックですが向こうに見える71Cと比べると、71Bはまったく異なります。銅合金鋳物を複雑に削りだしていますが、これは高くついたと思います。

 

71Cはアルミ合金に爪部分のみ銅合金を鋳込んでいます。また形式としてはリンク方式になっています。(71Bは直付け)リンクにした理由は誤操作によるバックギヤ破損防止の為です。


これは、左列上が71C1ST 下が71B  右列が2ND のそれぞれシフトフォークです。

大きさがまったく異なります。やはり71Bはシフトフォークにかなり問題があったんだと思います。そうでなければこんな大設計変更必要ないはずですから。

 

あと、シンクロを強化したのでその反力でシフトフォークにかかる力が増したことも、この変更に影響しているとは思います。

上が71C 下が71Bの1STのシフトロッドです。

 

やはり直径が太く変更されていますが、やはり何か不具合があっての変更の可能性があります。

 

前述したシフトの置き去り現象も影響していると思います。

 

 


シフト関係完成です。


 ケース側の加工に入りますが、画像はアウトプット側=リヤエクステンションケースですが、この支給されたミッションのストライキングロッドは前側に固着していて動きませんでした。見たところ異常は無いようなのですが、なにか入った可能性があります。


完全にばらばらにしました。今回 クイックシフトを取り付けてほしいという要望があるので、この部分はかなり変更が必要です。


よーく見たら画像の青丸印の中の部分に、かなり激しく削られた跡がありました。何かが起こったようです。

一番上がケンメリスカイラインの純正オリジナルです。ほとんどストレートであることがこのシフトレバーの特徴です。

上から2番目はフェアレディーzs30zの純正シフトレバーです。

 

 

そして注目すべきは一番下の いわゆるクイックレバーの典型的な商品です。これは現在でもアメリカで販売されている古典的なクイックシフトです。71B系ミッションのクイックシフトといえば、これしか見たことがありません。

原理は単純でてこの原理で支点の距離を伸ばせばストロークが減るということを利用しています。

ノーマル標準はあらゆる使用形態を網羅して万人に問題なく使用できることを前提にしていますから結構ダルイ設定になっていますが、これをクイックに変更するマージンは結構出あるはずです。

クイックにするとシフト操作が微妙になったり、シフトに要する力が必要になるので、ケンメリでもゆったり走りたい人には問題がでます。 

 

さて、この最下段の古典的なクイックシフトですが画像の四角いプレートで現在のシフトリンケージの上にアダプトするのでシフトレバーの根元が かさ張り、ゴムのダストブーツが取り付けできなくなっていたと思います。 

 

 

画像下側が新たに造ったクイックシフトですが、35%シフト距離を短くしました。

 

 

クイックシフト化の詳細については、こちら71系のシフトリンケージについてで特集を組みますのでご覧になってください。


そしてこれがケンメリスカイライン用に造って取り付けた実例ですが、シフトの前後ストロークは片側45mmから30mmへ減少していましたので、元のストロークの65% つまり35%のクイック化です。例えば1STから2NDへの総シフトストロークは90mmから60mmへ減少します。

 

ただ当然シフトに要する腕力は35%増えますので、腕力を鍛えねばなりませんし、またシフトの動く範囲が狭まったので少しでも動かす方向を誤るとシフトミスするリスクが増しますので、男のシフトレバーまたは零戦仕様ということになりますね。

 

話はケースの部分に戻りますが、フロントケースは洗浄後フロントカバー取り付けネジにタップをかけてネジをさらいます。以前ここにごみが溜まっていてオイルモレを発生させたことが有るからです。

フロントケースに組み付けていきます。

フロントケースは支給品でしたがある程度外観は汚れや粉さびははつったのですが、ケース下部はシャシーブラックが吹かれていてこれ以上は取れません。外観は機能には影響しませんのであまりきれいにはしていません。


組みつけが完了して簡易試験機e-zanaraizerでの試験に入ります。この状態で異音や振動が無いか、シフトの入り具合やミスシフトはないか、スピードメータアウトプットは動いているか、オイルモレは無いかなどをチェックしていきます。そして5速に入れた状態で1時間回しっぱなしにして、そのときの温度上昇量を計りますが今回は8度cの上昇量で前例では普通の値でした。

 

完成まじかです。

 

さらっと書いていますが、今回クイックシフト化したことでシフトリンケージ関係の調整が必要となり、4回ほどケースを開けなおしています。気になるところは絶対につぶしておかないと後でやっぱりその部分が問題が出ることがあるからです。

 

オーナーの東京のIさんはミッション交換と同時にクラッチ関係も完璧にする計画で、次の様な物も私の所経由で準備されました。賢い選択だと思います。

 

・軽量クロモリフライホイール+強化クラッチBキット

・クラッチスリーブ&ベアリングセット

・大容量レリーズシリンダー(クラッチが軽くなる)

・クランク後端パイロットブッシュ

・ミッションマウント

・ミッションクロスメンバーブッシュ

・強化クラッチフォーク

・強化ピボット

・強化フライホイールボルト

 

私の所経由で注文していただけると私としても実績が出来るし、消費税ぐらいはサービスが出来ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

2014年2月4日

これ以下、東京のiさんが自力で地下ガレージでこつこつとミッション載せ替えを実行した様子をメールで送ってきましたので転載します。

ほとんど専用工具もない状態でよくここまで出来るもんですね。感心しました。

 

 

 こんばんは 東京の iです。

東京は朝から天気が悪く、仕事は午前中で中止にして午後から雪の中、試運転に入りました。

・ミッションオイルは500mmlの油差しで4回注入してうまくいきました。

30kmでの5速までの繫ぎとクイックシフトの感覚も申し分ありません

添付画像は、愛猫→ケンメリ2カ月ぶりの方向転換(久しぶりに顔を見ました)→洗車中前後→シフトレバー位置N→1st→2nd→3rd→4th→5th→Rth→Rth(アップ)です。

 

シフトレバー位置が運転席側に20mm後方に20mm程変更になったようで(今回 シフトレバー改造でクイック化している)

1stは入れやすくなりましたが、5thとRthはコンソールにスレスレになります。

Rthはサイドブレーキに干渉してしまいました。

このまま距離を伸ばしながら試運転をしてみます。

 

α27最高です。