S20エンジンご用達、R192デフのオーバーホール

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2023年1月8日

R192デフ R26

久々にR192デフのオーバーホールです。

R192としては純正ままのR192

錆がだいぶ見られます。

リヤカバーのねじはだいぶ錆びこんでいます。

ギヤ比は4.444

純正LSD付きです。

 

オーバーオールプリロードをシール付きではありますが測定しますと2.4Kgしかありません(本来は15Kg以上)つまりがたがたの状態です。

 

バックラッシュは0.28~0.30と過大になっています。

サイドフランジを外しました。

サイドフランジのテーパー面はそれほどひどく摩耗しているようには見えません。

LSD玉です。実はこれをデフケースから取り出すには一筋縄ではいかないあるコツが必要です。そのことに気きづかずにケース側を削ってしまっている例が時々あります。

リングギヤの面ですが、ある意味研ぎ澄まされた日本刀のような青光りがしているのが正しい状態です。

激しく使われたリングギヤは光っているすべり面とそれ以外の面との間に段付き摩耗が生じているものがあります。そのようになるともうバックラッシュとかプリロードはめちゃくちゃになり修理はできなくなります。その場合はリングギヤ・ピニオンギヤともに捨てることになります。

 このリングギヤは合格レベルと思います。

LSDを分解します。

R192は左右4枚どうしで合計8枚のプレート構成で、プレッシャープレートはそれぞれ2枚づつですが、分解したものは張力(そり)がほとんど無くなっていました。

プレート構成です。

ピニオンギヤです。

2ピニオンであることがわかります。

カム角はニスモ並みに大きな角度130度くらいかな)

ピニオンギヤです。

外したボルト類ですが、この中でリングギヤボルトの緩み止めのためについているプレートワッシャーは折り返しがすべて割れてしまいました。相当固い材質で作っているようです。もうこのパーツは製造廃止ですので復元は難しそうです。他のR180やR200ではもともとこのボルト緩み止めはついておらず、ネジロックで化学処理しています。

ピニオンを分解しました。

こちらも消耗度合いとしては少ない状態と思います。歯数は9歯

こちらがピニオンリヤテーパーベアリングのレース面ですがやはり摩耗痕がひどく長らく交換されてなかったという印象です。

ピニオンテーパーベアリングのフロントとリヤを新品にしてピニオンを仮組する。特にピニオンフロントベアリングは私が復刻したもので純正はもとより市販ベアリング屋さんでも入手できないものとなります。

 

この時に重要な調整があるのですが

・ピニオンの突き出し量=刃当たり

・ピニオンのプレロード調整

となりますが、この時点ではこの値でOKかどうかはわからなくあくまで予想の値のシムを使います。従いましてリングギヤ・LSD・サイドフランジまで全部組んでバックラッシュ調整を確認してOKとなるところまで何度でも組みなおします。OKの値をつかんだ時点で、すべて分解してその時点から本組となります。

上手く調整が出ないときはこれを何回も繰り返すことになります。私は今までやったデーターを記録しているのでおおよその傾向はつかめているので、大きくは外れない状態で組めるようになりました。

 

今回のピニオンプリロードは9Kgでした。

さて、LSDですがオーナー様がこの4ピニのR192用LSDを持ち込んできているので、これに交換の予定ですが少し問題があります。

 

イニシャルトルクが10kgを振り切って16Kgを指していました。この値は純スポーツ用としては良い値ですが、普通に乗る場合はかなり苦労することになります。おそらく信号で停車して左折しようとしたときに車が曲がらずにそのまままっすぐに進んでしまう事が起こると思います。また峠道のコーナーで緩いスピードで走るとリヤタイヤが暴れまわるような動きをして駆動系にダメージが来る可能性があります。

 

しかもこのLSDは4ピニオンであるだけでなくLSDプレートも純正の4枚から6枚に増やされており、これではほとんどデフロック状態になるのではないかと思います。

 

どのようにしてLSDプレートを4枚から6枚にしたかというとまずデフケースの受け面を削り込みスペースを確保して、さらにそれぞれのLSDプレート板厚を薄く(1.7mm)して枚数を確保しています。よって、この4ピニオンLSDは2ピニオン品とは個々のパーツは互換性が無いことになります。

ご要望としては街乗りで快適に走ることですので、イニシャルを6Kgくらいに落としたいのですが1枚抜きでどうだろう。やってみないとわからないがイニシャルはかからないだろう。

 

その中間の板厚のものを作れば調整が可能だが、材質や表面状態の作りこみが上手くいくかどうか難しい。製作することはできるにはできるが高いものにつくだろう。

いままでついていたノーマルの2ピニオンLSDのイニシャルも計ってみた。

ノーマル2ピニオンのイニシャル、こちらは5Kgを示している。ノーマルならこれくらいが適すると思う。

4ピニオンのギヤとハウジング類はおそらく2ピニオンと同じ寸法だと思うがギヤ部は測れないので確証は無い。

 

良く計ってみたらプレッシャーリングの厚みも薄くなっていてここも互換性は無かった。

これが4ピニオンのケースを削った状態の図である。ここの板厚をもっと薄くできるならここを削り込めばイニシャルは下げれるが

、そんな恐ろしい加工はやれない。

2ピニオンはこのようにワッシャーと段付きがある。

やるだけやってみるかと左右それぞれ1枚抜きの5枚構成にしてイニシャルを測ってみたらなんとドンピシャで6Kgとなった。これでめでたしめでたしとなると思った(組めるには組めるのでそうやっている人もいるかもしれない)が、こうするとサイドギヤとプレッシャーリングが宙に浮く(2枚プレート抜いた分だけガタが出る)ことになり強くトルクを掛けると1.7mm分激しくケースにプレッシャーリングがぶち当たるのでゴンとかガンとかの大きな音が出るようになる。6枚入っていればケースとプレートとプレッシャープレートを足した寸法の差はわずか0.3mmしかない(だからイニシャルが16Kgにもなる)ので、このガタが極めて少ないことになる。

 もっと正確にいえばサイドギヤがこの構成ではもともと宙に浮いている。(なぜならケース側のスラスト受けワッシャーをLSDプレート増しの為に取り除いてしまったから)しかしプレッシャープレートがサイドギヤの裏側を0.3mmのクリアランスで強く押し付けているのでサイドギヤが宙に浮いていても問題は少ないのだと思う。

言葉で説明するのはもう限界なので、簡単にいえば6枚入れるべきプレートを5枚にするとガタが大きくなるという事にしよう。

こうなると選択支を考えて選択することになるだろう

 

 

案1 2ピニをそのまま使う。LSD作用は弱いが街乗りではほとんど問題は出ないであろう。

案2没案 2ピニのピニオンのみ4ピニにして4ピニを生かす。ただし、ギヤの互換性が無かった。 

案3 OS技研のスーパーロックに交換する。これなら街乗りで問題ないし、いざというときはLSDも強烈に効くだろう。ただしお値段がかかるな。

案4 4ピニでイニシャル16Kgで乗りこなす

案5 4ピニでプレート5枚構成にしてイニシャル6kgで何も問題が起こらないことを祈りながら乗る。

 

オーナー様と相談してLSDの選択としては

案4 このまま4ピニオンの希少性と特殊性を生かして16Kgイニシャルで乗るという結論になりました。

サイドフランジとバックラッシュ調整用シムです。

このサイドフランジシムは製造廃止品ですので私はこれを復刻販売しております。板厚は0.1、0.15、0,2の3種類 材質をステインレスにしておりますので錆びないものです。

LSD玉にサイドベアリングを取り付け

サイドフランジにテーパーベアリングレースを圧入

こちら側にパイロットベアリングを圧入してからEリングで止めます。ここにベアリングがあるのがR192の最大の特徴となります。他のR200、R180などは原価低減なのかここのベアリングは省略されています。 機械設計の常識から見たらここにベアリングが無くてサイドフランジの保持はどうするの、大丈夫なのと言いたくなるのですが、結果オーライの設計変更ですね。

組み込んでバックラッシュ調整です。

今回は0.10~0.13でセットしました。

サイドベアリングプリロードは7Kgです。

刃当たり正転側

ほぼど真ん中

刃当たり 逆転側

ほぼど真ん中

これですべてのセッティングが完了して、各パーツの交換と調整が完了した状態です。各値が適正値に入るまで何度でも組みなおしています。

そしてこれをまたこの状態までバラバラにしてから本組に入ります。

本組に入ります

サイドフランジのシールや、フロントコンパニオンフランジのシールなどを組み込みます。

又各締め込み部、特にピニオンのダブルナット部分はメタルロックを使って固定してゆきます。

デフカバーはオーナー様が持参した大容量アルフィンデフカバー

内部にはすでにオイルスロアーが取り付けられています。

デフカバーを取り付けて完成です。

今回は同時にこのプロペラシャフトのオーバーホールも依頼された。これで駆動系リヤ周りはすっきりとなることになる。

ボールスプラインのグリースを入れ替えて、ゴムブーツを新品に交換して、金属バンドもしっかりと巻きなおします。十字ジョイントの動きとしてこの時点で自重でお辞儀をしないようにジョイントに付属する選択式のcリングを打ち直してジョイントの動きを調整してゆきます。cリングは6種類くらいあるので選択には経験が必要です。

自分はちょっと刻印マニアなのでここにもロゴマークを入れています。日付も書くべきだったかな。