羊の皮を被ったミッション

2013年6月30日

 

ハコスカはもともとはセダンタイプという範疇で販売された車ですが、どういう運命かレースの世界に引き込まれた挙句がレース常勝車となってしまったという、よくよく考えると非常に不可解な車生(人生)を歩んだ車ですが、あまりのレース強さとその外観とのギャップから「羊の皮を被った狼」といわれたことは有名です。

 でもやっぱりハコスカオリジナルでは狼になるのは難しくエンジンを始めとしていろいろ手を尽くされるのですが、そういう意味で言うと71Bミッションの皮の中に71Cミッションを入れるのはちょっと狼化ですよね。ですよね!

ましてやギヤをクロスにすれば、もう大分 狼ミッション完成に近付きます。

ハコスカの魅力ってある意味こういうところにあるんじゃないでしょうか?

ハコスカKGC10にお乗りのMさんからミッションの依頼がありました。

エンジンを変更するのに合わせてミッションの不具合を解消したいというものです。

要望は71BコンパチCエキストリウム つまり全ベアリングとシンクロ新品に交換です。

そして なんとかクロスギヤを入れたいという要望です。

 

もうすでにあらかじめ素材となる71Bはこちらに送ってくれてありますのでこれを使っていきます。

次に、71Cのクロスミッションを入手しなければなりません。

 

またもうひとつ問題はMさんの2ドアハコスカはプロペラシャフトがフランジ結合タイプだということです。したがってコンパチ化にあたってこれをスプライン差込タイプに変更が必要です。

がこれがなかなか無いんです。今は

 

 情報ではS30Zの2/2のプロペラシャフトがなんとか使えるらしいですが、それさえもなかなかお目にかかることはすくないですので、どうしましょうの状態です。

 

大分探し回ったのですが2ドアのハコスカのプロペラシャフトは見つかりません。オークションはあきらめていろいろ探しても出てきません。

 

そんな折にオーナーからプロペラシャフトを入手したと連絡がありました。やはり蛇の道はヘビ、トラの穴に入らないとペラを得ず、ですね。これで安心してミッションを造れます。(でも大分高かったらしいです)

 

 さて、これは71Cのクロスミッションです。プロペラシャフトは見つけられませんでしたが71Cクロスミッションは見つけて、さらに値段の下がるタイミングまで狙い続けて入手です。

 

71Cの中身ですが相変わらずがっしりとしています。ほとんど隙間なく金属の塊です。これを今回の狼ミッション化の素材として仕上げていきます。この後、これを全部ばらばらに分解しました。

 

 

これが狼=OSクロスのG2の証であります。

カウンターは一体でギヤが加工されていますから、このカウンターでミッション仕様はほぼ決まってしまいます。

 

 

シフトフォークも相変わらずがっしりと大きいですね、

 

 

 

 


こちらが今まで使っていた71Bのポルシェサーボシンクロのフランジタイプです。ギヤの厚みが薄いです。


そしてシフトフォークもこのように小さく針金細工のようです。良くこれで曲がったりしないなと思いますが、材質が鉄なのでそこそこ強度はあるのかもです。

 

このギヤセットはそっくり使いませんので分解して保管しておきます。

 

使うのは外身のケースのみで、つまり羊の皮となる部分ですね。

 

 

 

 


さあ、いつものように組みつけに入ります。必要な交換部品は全て準備できました。

先ず、基本となるアダプタープレートのベアリング2個を交換していきます。

ここがもっとも負荷が大きいはずです。

ひどく使われたミッションはここのベアリングががたがたになっています。


そして2速です。何故2速が先に来るかというと2速を先に組むからです。・・見る人にはあんまり関係ない話でしたかね。順番に1速から行ったほうがわかりやすいか・・・

 

えー、2速です。しかもOS技研のクロスの2速です。下に3枚重なっているのはWシンクロの部品です。Wといいながらトリプルです。右側の袋入りはギヤの中に入りギヤ荷重を受けるニードルベアリングです。

そして左上の袋はWシンクロの新品袋入りで交換します。

ギヤをまじまじと見ますと実にきれいな造りです。バリなども少ないです。そして肌色がシルバーな感じで光っていますが、これは標準ギヤとはっきりと異なっています。私は熱処理品をたくさん見てきましたので、これがかなり高度な処理をされている印象を受けます。標準品はすごく黒いですが、焼き戻しを連続炉でやっているからだと類推します。OSクロスはたぶんバッジ炉です。

そしてやすりを当てた感覚から、標準ギヤより表面硬度が高いことも感じます。熱処理条件か材質を吟味していると思います。

 

 

そしてこれはいつものようにスラスト受け面にダイヤモンドやすりでスジを入れていきます。きれいなのはいいことですが、あまりきれい過ぎると潤滑オイルが排除されてしまいかえって焼きつきやすくなりますので、このようにオイルが通るスジを入れていきます。また画像で2本ある黒っぽい溝もオイル通路ですがこの角もヤスリで丸めていきます。


次に1-2速間のシンクロハブですが、これも同じくオイル供給処理をします。

そして1速ですがやる内容は2速と同じですが、こちらはシンクロはシングル1枚となりますが、71Bと比べると直径が大分大きくなっておりそれだけ作用力が大きくなっています。

奥に見えているのはメインドライブシャフトに組んだ1-2速の機構です。

下側はカウンターシャフトでこれはこの状態で全部1体で作られていますが、加工は難しいと思います。

特に中央部に隣同士で作られた2枚は加工刃物の逃げが取れませんので、歯面研磨では出来ませんので専用の歯切り盤で成型したはずです。

そして前述の2本をアダプタープレートに組みましたが、このとき1速右側に回りとめ付きワッシャーと回りとめボールをセットします。これを外さないようにベアリングにシャフトを圧入するのですが、油圧プレスでないと出来ません。また2本同時でないと干渉があるため、後からは取り付けられなくなります。


3速ですが内容は2速と同様です。ここもWシンクロとなります。

メインインプットシャフトです。この右側のスプラインがクラッチ盤と勘合して動力を伝えます。スプラインの先端はクランクの後端のプレーンベアリングでガイドされます。

 

このシャフトはかなり負荷が高い部品ですが、よく見ると荷重を片持ちで受けていることがわかります。

メインドライブシャフトの先端も同じく片持ちです。それぞれをつないでいる部分に入るのが中央上部の小さなニードルベアリングですが、小さすぎて設計的に無理がありそうです。機種によってはこのベアリングサイズが大きくなっているものがあります。

 

 

 


3速とハブをメンドラ先端に組みスナップリングで固定し、そこへ3-4シンクロスリーブを取り付け、その後ろからメインインプットギヤを組みますが、この時カウンター側のドリブンギヤを同時に回り止めキーをあわせながら打ち込んでいきます。同時で無いと干渉があり、組むことは出来ません。打ち込んでいる間にシンクロがずれないように工夫しないと知らないうちにシンクロキーを変形させてたなんてこと、あります。・・・読むだけで疲れますよね・・・。

 

そのあとカウンターギヤ先端にギヤ音打消し用シザースギヤをサラバネで押さえながらリテーナーを押し込んでスナップリングで固定する。その後、カウンター先端にボールベアリングを打ち込む。ボールベアリングはかなり特殊なサイズで日産部品ではすでに製造廃止で出てきませんので、以前お付き合いのあったベアリング専門商社と相談して該当品を探し出したものです。・・・はあ 書くのも疲れてきました・・・。


5-バックのリヤ側のギヤ類も組んでいきますが、こちら側は比較的組み方が楽ですが、やはりギヤを入れていく順番が正しくないと、干渉が出て組めなくなります。単純に外れるところならやり直せばいいですが、打ち込み組み立て部分を組み間違えるともう一度全部分解してやり直しなんてことが起こります。過去に何回かやらかしましたが、いまでは体が覚えているので、頭が違う順番を考えていても手が勝手に正しく組んでいきますので組間違いは無くなりました。?!

 

ここで確認をしますが、これが大事です。全ベアリングと全シンクロを交換していますので問題は無いはずですが、確認します。ギヤセットはOSクロスのG-2セットです。

 

         1st  2nd   3rd   4th   5th

 

 メイン歯数    27   22    21    22    21

 カウンタ歯数   14   18    24    31    39

 ギヤ比    2.718 1.722 1.233 1.000 0.759

 

標準ギヤ比  (3.321 2.077 1.308 1.000 0.864)

240クロス (2.906 1.902 1.308 1.000 0.864) 

 

ASSY状態でのギヤの各部クリアランス

 EP     0.35   0.15      0.30       ---    0.18 

 BR     0.10   0.15      0.12       ---    0.15

 

各値ともに申し分ない状態ですのでこれで安心です。

 

尚、5THのギヤ比は22×37歯数の0.83にすることも可能です。

 

シフトフォーク類を元どうり組んでいきました。5-バックはリンクタイプのフォークとなっています。71Bはこの部分がリンクではなく、1-2速などと同じリジットでしたが、バックギヤのシフトミスによる破損=ギヤ鳴きがあまりにも多いのでこのリンクが考え出されたようです。71Cでも最終的にはこのリンクでも追いつかずとうとうワーナーシンクロが追加されていますが、それでもバックギヤはひどく磨耗変形している場合が多いです。単純に車が完全に停止してからバックに入れれば防げることなんですが、人間の性質がいかにせっかちかなのがわかりますね。

シフトロッドの一番上の1-2速用はφ16となっており、71Bのφ14より太くなっています。そのままでは取り付けできないのである加工が必要ですが画像でわかるでしょうか。このロッドだけでなく、他のリンケージ関係もフライスで追加工しています。これをしないと組み付け出来ませんし、無理に組んでも上手く動かずひどく動きが重くなったりします。

 

 

 


さて、とうとう いわゆる羊の皮の部分にとりかかります。手前がフロントケースで、たいてい内外油で真っ黒汚れだらけの状態になっていますので洗剤で洗っていきますが、アルミなので白い粉=さびが有る場合も多くこれは洗浄ではきれいになりません。そういうところは金属たわしで磨いていきますが根気が要る作業です。ショットブラストをかけるにしても結局は油は落とさなければなりません。

 

奥の左手に見えるのがリヤエクステンションですが、ストライキングロッドを分解して外してあります。

これによってストライキングロッドの首の部分にあるオーリングの交換が出来るようになります。このオーリングの部分からオイル漏れする場合がありますので、交換してゆきます。

このロッドを外すには左下に写っているストライキングレバーを外さなければなりませんが、このレバーはテーパーピンでロッドにロックされていますので簡単に叩いたくらいでは外れません。リヤエクステの内部の狭いところでの作業となりますので、ジグを造ってこれを外せるようになりましたが、ジグ製作まで半年かかりました。このようにやってもテーパーピンが曲がってしまっているのがわかりますね。これは交換します。


ストライキングロッドを分解するのはこの部分のオーリングを交換するためです。このオーリングがだめになるとリヤエクステ後部がオイルで真っ黒に汚れるようになります。

 

リヤエクステのスプライン差込部のオイルシールを交換します。このシールのすぐ下に差込部の円筒研磨部をガイドするブッシュが圧入されておりそのブッシュにはオイル溝が設けられています。この部分に循環するオイルはミッションオイルの胴体部しかありませんから、ここまで中央部のプレートからこの字型のトイのようなものがずっとここまで設置されオイルを送るようになっています。さらに71cではそのトイに十分にオイルが乗るように漏斗のようなものが追加採用されています。この漏斗にはギヤが回転するときに生じる遠心力でオイルが掻き揚げられるようになっています。71Bにはこれは有りません。

 

このスプライン差込部が潤滑不足で焼きつくと、プロペラシャフトはロックしてしまうので、後輪&デフと直結するプロペラシャフトが破損するか、後輪タイヤがスキッドするかのどちらかになります。しかも、具合の悪いことにこれはクラッチを切ってもなんの救いにもなりません。

 

エンジンが焼きついた場合はとっさにクラッチを切ればいいのですが、ミッションはそうはなりません。

 

 

画像中央部にある四角いプレス部品が前述の漏斗になります。1速ギヤが回転することでこの漏斗にオイルが溜まり、右側の穴を通過してその向こうにあるトイにオイルを乗せます。わずか120円の部品ですが、大きな働きをしているようです。またこれが曲がってしまったり、回転して上下裏返しになっている71Cを結構見ます。気をつけて組まないと組み付け時にどうしても何かとぶつかり変形しやすいようです。


次にフロントケースのカバーの準備をします。ここもオイルシールを交換してゆきます。

 

画像が大分飛んでいますが、ミッションの中身が完成し、フロントリヤともにケースも準備できたので、合体していきました。そしていつものようにミッション簡易試験機 e-zanaraizer に取り付けてミッションオイルを入れた後で回し、 振動と音 それからオイル漏れ そしてシフトの具合 スピードメーターギヤの動きなどを確認し、5速にシフトした状態で1時間500rpmで回しっぱなしにします。このときの前後の温度差をいつも確認しているのですが、今回は 7.5度cの上昇でした。(通常は10度くらい上がります)内部の引きずり抵抗も問題ないことが類推されます。

 

完成です!

 

なんですがそれにしても外観から見ると羊=71Bとしか見えません。ほんとにこの中に71Cのダブルシンクロや厚歯の各ギヤや、さらにはOSクロスが入っているとはぜんぜんわかりませんが、走ってギヤチェンジしたとたんに、このミッション何らかの改造がしてあることがわかるという、ほんとにエンジン以上に 羊の皮を被ったオオカミ の完成ですね。

 

 

 

 

7月22日  ミッションを依頼されたオーナーさんからメールが届きましたので転載します。

 

お世話になります、Mです。

今日はお電話ありがとうございます。

今回はほんとに丁寧なHPにての作業工程が見れて場所は遠くてもとても安心してお任せ出来ました。元々私も普段は足にハイリフトのジムニー乗ってたり高校生時代に乗ってたRZ250しかり(ハコスカ落ち着いたらまた乗ろうと思いたいです。)今でも続けてるマラソンや自転車などの重なる趣味もありお願いしたきっかけもありました。

ほんとにありがとうございました。

 

また1つお願いがあるのですが今私の車を仕上げてる段階の物をすべて写真収めておりまして出来上がり次第サーキット走行も目的ですが他に地元の旧車等のイベントなどに出す予定でしてその際各所のレストアを全部写真をボードに張って展示したいと思っておりますので、もしよろしければミッションの途中工程の写真等ございましたらデータでいいので頂けたりはしませんでしょうか?

すみませんがよろしくお願いいたします。

*追伸 ミッションの方ですがショップの方から下回りもきれいにするから自分で磨いたらクリアー振ってあげるから車仕上がるまでに磨きなさいとご指導いただきましたので磨くことになりました(笑)すぐに粉吹いちゃうらしいですね・・・

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このあと ”羊の皮を被った狼ミッション” と一緒に今回の製作過程の画像データーをDVDに焼いて一緒に送りました。各地のイベントやサーキットで時々は狼のミッションの片鱗を見せていただけるとうれしいです。

 

このページについてはひとまず終了です。また、ご縁で何か情報がありましたらアップします。


 


 

 

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