2013年12月10日

 

スカイツリーに棲む快人Z432面相

 

今回はこの白いZ432のお話です。

 

今月になってこちらにやってきました。

 

出身はスカイツリーのある東京墨田です。

 

持ち主はこのZ432のエンジンS20を手探りでオーバーホールするという快挙に成功した御仁で、わたしの 所属するクラブS30の旧知の仲です。

 

スカイツリーのある東京 墨田はもちろん東京23区の都心ではありますが、付近を歩いてみますと昭和の匂いが色濃く残る界隈が点在する怪しげであり、自分ににとってはすごく魅力を感じる世界です。

 

そしてこのZ432はそんな混沌とした都心に棲む快人によってよみがえった手作りの銘機です。

 

スカイツリーに棲む快人Z432面相との謎めいたお話が始まります。

 

 

 

 

 

 

初日の出ではありませんが、お正月の日差しを浴びて日光浴です。

 

しっかりしたフォルムですね。

長期入院の前のツーショットです。

全体的には普通の白いS30Zですが、こちらに来て以来毎日少しずつ見るに付け、個々のパネル・部品あらゆる部分についてそれ自体の歴史を持って存在していることがその車体から透かしあがってきているようです。ブラックジャックの体がつぎはぎだらけで有りながら全体では必然性を持って修復されていることが、分かる人は分かっています。

 

こんなことを私はこのZ432に出会って以来、毎日少しずつ自分の右手の平でいろんな場所を触れる

ことでますます実感して行きます。右手の平はほんの少し触れるだけでいいのです。長い距離を滑らせてはいけません。ただ一瞬触れることでその手の平の中で触れた面がイメージすることとどのように折り合いが付くのかを感じるだけなのです。面が合っているとかいないの世界ではありません。

 

こんなことをしながら自分はまったく車体に手を入れること無く全体を感じられるまで、この行為を繰り返します。実際の作業に入るのはそれらが終わってからなのです。

 

ポイントが少し逸れますが、このラジエターは総アルミで出来ていますが、フィンチューブが破損したのでそっくりくりぬいてフィンチューブを溶接しなおしたということで、そのようなことが出来るところがまだあるんですね。もっともアフターメーカーでアルミラジエター作っているところがあるんだからできても不思議はないか。

下にもぐって問題のミッションを見てみますと全体が油まみれです。ミッション先端にはオイルのしずくが見えます。


分かりにくいですがミッションの後ろの方までオイルが付着しています。

シフトリンケージ周りもオイルモレで湿っています。


ミッションメンバーの固定方法ですが、前回見た奈良のシルバーZ432には画像Aのカラーは有りませんでした。そしてそのカラーの分だけBのスペーサーが厚くなっているようです。これだとミッションの後ろ側が10mmほど下げる工夫をしているようです。

 

プロペラシャフトとのつながりは直線的で違和感は無かったのですが、どちらが良いのでしょうか?

 

よく分かりません。

 

とにかく分解していきます。

これはクラブS30の名誉顧問のSS KUBOさんのところで復刻している縦デュアル ステンマフラーですが、音が良くチューニングされていていい音が出ています。クォーンというようなレーサーに近い音です。

 

しかも、ものすごく軽いです。ステンなので薄くても耐久性は持つからなんでしょう。

 

 

ミッションを降ろすときには干渉するので外していきます。

 


タコアシを外しました。

 

このタコアシはかなり軽いです。

 

材質は鉄のようですが。

プロペラシャフトも外していきます。

2シーターだとこんなに短いですね。71Aミッションですからフロントの接続はフランジあわせタイプですので、ペラ中間には伸縮を吸収するためのスプラインが有りますが、このスプラインは頭の中で考えても相当無理がある設計だと思います。

なぜなら、スプラインが収縮する為にはそこにクリアランス=ガタが必要ですから、それを何の支えもなしに9000RPMで振り回すのはかなり無謀です。必ず振動が発生すると思います。

 

本来はリヤドライブシャフトと同じようなボール入りスプライン構造にしてガタをなくすことが必要だったと思います。

 


下回りの分解で気になったのですが、このデフメンバーはこの板厚から見て中期以降のデフメンバーだと思います。あるいはZ432は最初からここの設計が異なっていたのでしょうか?

 

私の知っている前期のS30ZLのデフメンバーは板厚が薄くてもっと頼りない感じのプレス製品でした。


エンジンルーム側の分解に入ります。

 

裏側になって見えませんがこのエアークリーナーには作りつけでエアーファンネルが付いています。

 

固定ですから長さの変更は出来ないですね。


やっとセルモーターに手が届くようになりました。

 

ちょっと見えにくいですが、セルのすぐ後ろにはさらにブローバイミストセパレーターがあり、これを外す必要があります。

 

ちなみにソレックスのジェットのデーターは

メイン #135

エアー #180

アイドル #55

油面高さ 20mm

でした。


セルモーターですがまだ新しいように見えますし、何の問題もなさそうです。

 

何時ものようにミッションを降ろすときに外すボルトを片っ端から外して行きますが、最終的に外したボルト類はこれだけです。これ以外にも少しありますが、それらはもと止めてあったところへ仮止めしておきます。このようにすることでボルトの締め忘れや紛失を防ぐことが出来ます。

 

このようにガレージジャッキのお皿のところに自作のミッション固定具を入れ換えてミッションジャッキに変身させています。もうすでにミッションとエンジンの合わせ目に隙間が出来ており、切り離しが出来ていることがわかります。


S20エンジン用3分割71Aミッション フランジタイプが摘出されました。

 

インプットシャフトを手で回してみましたが、ゴリゴリという感触が有ります。

やはりベアリングが異常がありそうです。

 

通常はこのようにすると するするという感じでシャフトは回ります。


画像では目立ちませんがベルハウジングの中は全周オイルが

べっとりと付着しています。

クラッチ側も画像では良くわかりませんが、ミッションとの接続面は全周やはりべったりとオイルが付着していて、その量も尋常ではないです。

クランクリヤシールかミッションフロントオイルシールのどちらかからオイルモレしているようです。

これ以上はクラッチやフライホイールを外さないと原因は究明が難しいです。

この個体にはこの部分にちゃんとスペーサーが入っていました。板厚は1.4mmでした。


S20エンジン用71A3分割ミッションが解凍されました。何年ぶりでしょうか?30年ぶり?


右側のエンジンマウンティングですが上側が剥離して切れています。底面側がまだくっついていますからエンジンが脱落することは無いですが、エンジンがぶれる原因にはなると思います。左側は見た限りでは剥離はしていませんでした。


又何時ものようにジグにセットして分解していきますが、分解する前に精度測定をします。

 

         1st  2nd  3rd  4th  5th

バックラッシュ  0.18   0.23   0.30   0.18   0.03

 

エンドプレイ   0.45   0.30   0.25        0.12

 

となっており値としては悪い値では無かったです。


このあと全部ばらばらにするのですが、まずシフトフォークを外します。

これは1stのシフトフォークですがやはり片減りしているのが分かります。これは71Aの弱点ですが、シフトフォークの爪が180度のところまで伸びていないために偏芯荷重がかかってこのようになってしまいます。このフォークはまだ銀色の表面処理材が削れただけで内部までは達していないようです。

 

ここが段つき磨耗するとシンクロスリーブが傾いてギヤが入らないという現象につながります。


3-4速のシフトフォークですが状況は同じです。

 

ここは問題ですね。もう表面の銀色のコーティング材が磨耗しているので、この後フォークの本体の磨耗スピードは早くなりすぐに段つきすると思います。

そしてこのメインシャフトのダブルロックナットですがレンチに延長パイプを付けて体重をかけて回してもびくともしません。

どうなっているのでしょうか?

 

また画像で分かるとおり左側のナットとワッシャーの間には舌付きロックプレートがあるはずなんですがなぜかこの個体にも付いていませんでした。

 

これだけ延長して右端に全体重かけたのですが、自分が浮き上がってしまいました。

最後のの手段でこれを使いました。ガストーチでメインシャフトロックナットM38を炙っていきます。トーチの右側にあるのは非接触温度計ですが、ナットの温度を時々確認しながらやります。

 

 

私は金属にあまり熱をかけたくありません。金属の性質がいかに熱で変化するものなのかを痛いほど知っているからです。前職の本職であった金型技術では非常に固い金属を金型材料として使いました。例えば SKD11などですが、これはスパー金型材料で熱処理性に優れています。でも最初から固かったらある形状に形ずくることが難しいですから、熱処理前の状態=生といいます で切削加工します。

そしてそれを熱処理(1100度くらいで4時間 その後200度で焼き戻し)して固くします。

その後研磨加工で仕上げるのです。ですから、焼き戻し温度の200度を超えて使うと 生る=素材に戻る ということになります。  少し長すぎましたね。

 

だから、ほとんどの金属はあまり高い温度をかけると素の状態に戻ってしまいます。ベアリング焼きつきなども同じ原理で、金属の極表面層でオイル切れなどで温度が上がり金属が柔らかくなって変形して起こります。

 

 

あっ、 あとアルミニウムに熱をかけるのは避けたほうがいいです。アルミは800度で解けてしまいます(鉄は1500度)し、温度が上がっても赤熱しないでいきなりドロッと溶けてしまいますよ。

 

 

ナットが外れたので5速から分解していきます。

 

5速のシンクロはややくたびれています、

 

バックのアイドラーギヤですが、青矢印部に明らかに何かが摺った後があります。

バックギヤですがやはり舳先部がかなり変形しています。

まだこれなら修正できそうな範囲ではあります。

 

カウンターを外して精度測定ですが、曲がりはほとんどありませんでした。

 

このまま再利用できそうです。

 

メイン側に戻りますが、1-2速のシンクロスリーブですが青矢印部が欠けています。

 

これはかなり大きな問題です。このスリーブは使用不可です。

 

さらに気になるのはこの欠けたかけらが出てこなかったことです。

 

粉々になって、ミッション内を暴れていたのでしょうか?

2速のメインギヤシンクロですが、これは分かりやすく磨耗しています。

青矢印部に地肌が出てしまった状態が見えます。

 

前述の欠けたスリーブで削られていたのかもしれません。

取り外したボールベアリングですが30年間ずっと働き続けてきたこともあり、やはり全部のベアリングが手で回したときの回転音が変でした。特にタグの付いているカウンターフロント側のベアリングは回転に引っ掛かりが出ていました。

 

欠けた2速側のシンクロスリーブのかけらがもしそのままでこのボールベアリングに刺さると、完全にミッションロックしたとおもいます。今回はかけらが見当たらないのでギヤで粉々に粉砕されてオイルに混じっていたと思われます。

 

こんな場合このオープンベアリングではひとたまりもありませんね。

 

正直修理前の試乗では私はベアリングの異音はあまり気にならなかったのですが、ずっと乗っているオーナーはやはり敏感に変化を察知する様です。こういうのってやっぱり車によって個性がありますから分かりにくいですね。