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2019年4月22日
ヘッド組み立て
やっとヘッド加工に収まりが付いたので組み立てに入ります。ヘッド加工はやりだすときりが無いので完璧パーフェクトは無いのではないかとさえ思えます。
ヘッドチューニングでよく聞くバルブすり合わせをやります。昔は機械精度が悪く面は荒いし、場合によっては偏心まであったのですが、最近の機械加工は素晴らしく精度が良く、一見バルブすり合わせも必要ないくらいに見えます。
こんな風に通称タコ棒にバルブを吸い付けてバルブコンパウンドを中目、細目と2段階で塗りバルブシートに押し付け回転させて仕上げていきます。
バルブシート側
バルブシートの形状も昔の定石75度・45度・30度とは全く異なります。
擦り合わせ前のバルブ 表面処理がかかっているので黒色をしています。
擦り合わせ後のバルブ
擦り合わせた部分がうっすらと金属地肌が出てきています。そして最も驚くことはすり合わせ面が限りなくバルブ外周に近いことです。一般的にはほとんどがこのバルブテーパー面の真ん中付近で擦り合わせとなっていると思うのですがこのバルブはこれが大きな特徴で、ガスの流入経路をできるだけ乱さないことをねらっています。この部分の断面形状をイメージするとわかりますね。
擦り合わせ前のバルブシート
肉眼ではきれいに機械加工されていて擦り合わせも必要ないくらいに見えたのですが拡大するとツールマークが見えます。
中目コンパウンドでの擦り合わせ後
横スジが目立たなくなっています。
細目コンパウンドでの仕上げバルブすり合わせ後のバルブシート
やはりやってみる価値はありそうです。
バルブは実際のエンジン稼働の中では常に少しづつ自己回転しながら自然にすり合わせが出来ていくと思われますがやはり最初が良くないとだめでしょう。
そしてこの部分
実に過激だ!
ビッグバルブ恐るべし
カムホルダーを取り付けた
ヘッド加工のところで述べたように手前側の固定ボルトはヘッドのアルミに直接ネジ立てしているので締めすぎるとズル剝ける。締め付けトルクも180~220kg/cmと控えめ設定なのだが、大事なカムをこんな所へ付けれない、ということでここはヘリサート打ち込んでいます。締め込みトルクも規定上限+10%で増し込みしています。向こう側のボルトは最終的にはヘッドボルトで共締めされるので問題なし。
ピボットナット、ピボット取り付け
ピボットナットの締め付けトルクは800~1200と強烈であるので、この時点でのヘッドの固定に苦慮する。
しかしあるものを取付忘れてピボットは再び取り外すことに。
私はピボットにも番号振って元どうりのところに戻します。ロッカーアームももちろん番号振っています。あんまり気にしなくても良い様ではありますが。
忘れ物はロッカーアームを飛んでかないようにしておくヘアーピンを止めるパーツ、この針金のようなものはピボットを取り付ける前に付けないといけない。
バルブを取り付けていきます。
インナー側のスプリングシートはすでに入っていますがアウター側はまだ取り付けていませんから忘れないようにします。バルブ突き出し量はスプリングシート入れない状態で44.5mmでした。
バルブスプリングは10000rpm対応の超高荷重スプリング 不等ピッチダブル巻き インナー逆巻き
インレットバルブ用は青ペイントでペイントが下側
アウトレットバルブ用は白ペイント
やはりインとアウトで仕様を変えていますがバルブサイズ=重量が異なるので当然のことではありますが、
両者を区別するのは10000rpm対応用のみです。
バルブリテーナーは軽量チタン製 クロモリと比較して9gも軽くこれだけで6気筒で54gの軽量化です。+0.5オフセット
バルブコッターは強化品、これもスプリング強くしたんだから必然の選択です。
取り付けていきます。
アウター側のスプリングシートを忘れない。
セットできました。
スプリング取り付け長は43.4mmでした。
組み付けに使用したこのバルブスプリングコンプレッサーは35年前チューニングに憧れて恐る恐る手に入れたもので、当時の自分にとってものすごく高価な贅沢品でした。
バルブがセットできました。
全景
さて、このヘッドの左側部分は機械式燃料ポンプが付いていた名残ですがほとんどのエンジンが目くら蓋でふさがれていますが、このただの蓋の取り付けネジがM8である必要はまったく無いのでM6でヘリサートしています。
奥側は板厚5mmのアルミ板で作ったシンプル版の蓋で固定したところ。
手前側は遊びで作ったZマーク品
そしてここなんですがチェーンの調整を見るための窓で通常は蓋をしているところで、ここはただの蓋なので取り付けネジはM6が3本だけです。
これが蓋ですね。
今回はタートルリアルさんのツインアイドラーを使うのでここに取り付けますがセット内容ではここに蓋を取り付けていた時のねじサイズM6を流用して3本で固定することになっています。なんとも頼りないサイズです。
それに対して内部のギヤスライダーを固定するネジはM8が4本とずいぶんとオーバースペックで釣り合いが取れません。
内部ではこのギヤがタイミングチェインを押さえるようになりますがこれが緩むと大変なことになります。
最悪チェインが刃飛びしてバルブタイミングがめちゃくちゃになりかねません。そうなったという話は聞かないのでこれでも十分な強度が確認されていると思いますが、機械系の私はこのボルト構成設計強度の逆転が納得できないのです。
そこで私はこの3本の固定ネジをM6からM8にサイズアップしてさらにヘリサートをかませてしっかり締めこめるようにします。ヘッドをばらしている今なら比較的簡単に加工できます。
私もいくつかの製品を製作して販売しているのでよくわかるのですがこのような後付け部品はなるべくボルトオンで取り付けられるのが売れ行きに大きく影響しますので製品が成り立つ限りボルトオンを目指しますのですが、使用する側はそこを良く考えて自分の中で消化して利用してゆくべきだと思います。
そしてさらにここも凝りまくってモディファイいたしました。取説ではボルト4本でのスライドプレート固定、しかもタイミングチェインの張り具合を見ながら親指でめいっぱい押しながら調整しながらボルトを締めるということになっていますが、自分の親指は腱鞘炎が有りますので調子いい時でないとダメそうなのでこのよう調整ねじで張り調整できるように改造しています。また、これなら最悪4本の固定ネジが緩んでもスライドプレートが下がってしまうことを防げるのではと思います。
こんな感じになります。
ほんとうはブルー色の強化パッキンもはさまないで直止めしたいのですがチェインラインがずれるのでやめました。
現在のバージョンの画像、当初の荒々しいデザインからより洗練された作りとなってきている。表面にはツールマークを残してワンオフ感や機械加工の美しさを追求したデザインとしている。
ヘッドカバーも付けてみた
だんだんと魔界に近ずいている・・・・
ヘッドをブロックに乗せて仮組しています。ヘッドガスケットはまだダミーを使っています。
カムはタートルリアルの77度iカムリフト10mm
スプロケットは同じくバーニアタイプ
純正と比較すると形状は全く異なります。
カムを取り付けた
カムスプロケ固定用ワッシャーがこのとおり変形しているので暫定で旋盤で仕上げておいたが、このワッシャーは特殊で焼きが入っているのでできたら交換しておきたいところです。
カムスプロケ取り付け完了
タイミングチェインを張ってツインアイドラーでセットしています。
3mmロッカーガイドを使い、ロッカーアームを仮止め
逆側から
まだカムシャフトタイミングは設定していませんので、この状態でクランクを回すことは厳禁です。
いつも他の仕事が終わってからやるのでいつもこの魔界に入ってしまいます。
故有ってこのちっちゃなエンジンも同時進行でオーバーホールしている。
2019年5月3日
L型エンジンのカムシャフトタイミングの設定
さていよいよカムシャフトタイミングの設定に入ります。ここでへますると高価なビッグバルブやカム、果てはピストンまでオシャカになるリスクがあるので非常にデリケートだし、またここで正確なカムシャフトタイミングを設定しないとエンジンの性能が出せません、おそらく±2度、いや±1度以内に設定しないとだめだと思いますので非常に重要で、今回も岡田監督と応援に来ていただき万全を期しました。
画像、ヘッドをスタッドボルトで止めるためスタッドを打っています。またヘッドガスケットは3層のメタルガスケットになるべく3層の中も含めて全面にベンガラ液体ガスケットを塗り込んでいますが、特にオイル穴と水穴の周りは入念にやります
ベンガラ塗り込み
さて第一歩は1番ピストンの上死点を測定してできるだけ大きな全周分度器で0点設定をします。分度器は絶対に緩まないように強く固定すること。ヘッドを乗せた後これが動いてしまうと悲惨なことになります。ブロック側の指針も同じで、簡単には動かないようなもので構築します。画像、針と黄色の矢印マークが0点。上死点付近はピストンの上下の動きが非常に少なくなるので微妙でダイヤルゲージで目だけでは変換点を感知できないので、ダイヤルゲージを当ててクランクを前後させ、針の動きが反転したポイントで、例えば前後の0.1mmになった時の分度器角度を読んでその真ん中のところを0点に固定します。固定した後も何度かクランク前後させて正確に0点で合っているか確認。
ピストンはピストンピンを中心にシリンダーの中で首を振るのでピストンピンの中心で測らないと値がずれますのでダイヤルゲージの測定端子をピストンの頭のしかもピストンピンの真上にセットしています。
。
ヘッドを乗せました。ベンガラが乾かないうちに素早くやる必要があり、忙しいです。
ARPスタッドナットを700kg/cmまで数回に分けて締めこんでいきます。ARPのねじピッチを考慮して標準の下限でセットしています。
ロッカーアームとカムの隙間をタートルリアル指定の
0.3mmでセット。標準は冷間0.25mmの指定ですがカムタイミングは温感でのことなので設定時は温間になったときのカム隙間0.3mmで調整します。実働時は0.25mmに戻します。
さてここからが問題で今まではチェインを張っていないし、ロッカーアームも完全に下げている(緩めている)のでカムを多少は回しても問題はありませんが、チェインを繫いだ瞬間からピストンとバルブの干渉に注意していなければなりません。ある程度カムタイミングが正規に近いところにいれば多少ずれても当たらないんですが、ハイカムの場合バルブリフトが大きいので余裕がすごく少ないです。でもチェインを張ってカムを回さなければタイミングが分かりません。
どうするかというと岡田監督から伝授のこの方法、カムを排気上死点(カムの山がIN、EXともに下側)にしてバルブが両方押されている状態で両方のバルブリテーナーが高さが同じになる位置、画像ではスケールを立ててチェックしていますが、この状態でクランクを上死点にした状態=0度でチェインを張ると、これでかなりの範囲でバルブタイミングは正規の位置に近い状態で張ることができます。L型の場合はこのセオリーが通る様で他のエンジンではどうかは分かりません。
もう一つの方法はすでにこのカムはタイミングが仕様書に記されている(IN側が1mmプッシュでトップ前32度)のでIN側のバルブリテーナーにダイアルゲージ当ててカムを回して1mmプッシュの状態にして、その時のクランク角度をトップ前32度に動かしてその状態でチェインを張るというような方法もあるかもしれませんが回転方向が間違えそうでややこしいですし、正体不明のカムを使う場合はこの方法ではできないです。
吸気・排気のカム形状が左右対称の場合は圧縮上死点(カムが両方上側にある状態)で振り分けを見れば上死点がある程度判断できるかもしれませんが左右非対称カムでは目視では不可能です。
チェインを張っています。
ダイヤルをIN側リテーナーに当ててカムが触っていない状態でダイヤル外周リングを回して0合わせしますが、できたら15mm押し込んだ位置=バルブストローク分以上ストロークできる様にして0点合わせします。
次にロッカーアームとカム基準円間のクリアランスを0.3mmであることを再確認します。このクリアランスが異なるとバルブが開くタイミングもぞの分ずれます。
いよいよカムタイミングのセットですが仕様書どうりIN側バルブが1mmリフトでクランクが上死点前32度という指定になるように合わせます。合わせはバーニヤスプロケなのでカムを1mmリフトの位置にしておいてバーニヤ緩めてクランクを32度の位置にしてからバーニヤ固定か、クランクを32度にしておいてバーニヤ緩めてカムを1mmリフトまで回してから固定かのどちらかですがこれが簡単ではありません。チェインのたるみとか遊びとかが影響しているのか何度かやり直さないとセット後の確認でまだずれていることが多々あります。これは経験でやり方=緩みやガタをキャンセルすることを掴む必要があります。と言っても0.5度以下のずれの話なのでほんとにほんの僅かなんですが、ハイカムでは1度のずれが命取りです。この後というか順番はどっちでもいいんですがそのままクランク回してINバルブが閉じる前1mmリフトの時の角度を読み取ります。例えば233度とか。これでIN側の作用角が分かりますのでそこから中心角を計算します。(32+233)/2-32=100.5度
この後同じようにEX側を測定して中心角が102だとしたら
(100.5+102)/2=101.25
これだとカムタイミングは1度ほど早いタイミングとなります。
こうやってセットしてからさらなる難関が有りますが、ロッカーアームとカムの当たり方です。ハイカムはカム凸面がロッカーアームのすべり面の端から端ほぼ全面に渡りすべるようになりますのでその当たりの位置がずれてきてロッカーアームのすべり面の範囲外に出てくることは頻繁に起こります。そのままだとロッカーアームの段差のところでカム山削ってチーンとなりますが、今回もそうでつまり振出しに戻るわけです。
これがロッカーアームのカムすべり面でここにこのようにマジックで塗っておいてカムの当たりを見ます。
この状態でヘッドに取り付けカムを回して当たりが左右でほぼ同じ、またはどちらにも黒マジック線がわずかでも残っている状態にしなければなりません。
今回はもともとのロッカーアームがかなり痛みが激しく虫食いがあったので思い切って新品に交換します。準備したのは純正品ですが
刻印AとJがありAは重め
A=80.8~81.8g
J=79.2~80.8g
トータル 2.6gの差がある
旧品は76.7gですので重くなっています。
高さ現行品は旧品に比べて+0.15mm高い
現行品で高さのばらつきはほとんどない
純正の現行品のロッカーアームはお世辞にも良い出来とは言えずロウ付けはずれてるは、超硬チップはバリが出てるは、果てはバリが大きすぎてロッカーガイドの2面幅に入らないもの(これって完全に不良品ですよね)までありました。
アームの高さがばらつくと各気筒でバルブタイミングがずれてしまうのでこんな治具を作って測定しています。
カムの当たりをずらすにはロッカーガイドの厚みを変える必要があり、今回はバルブ側に当たりが無かったのでロッカーガイドを3mmから2mmに1mmも薄くしてやっとこの状態です。
こちらがバルブ側の当たり、ギリです。ロッカーガイドは2mmがMINなのでこれ以上は調整できません。後はもっと大掛かりな変更となります。
バルブロッカーやロッカーガイドが変わるとバルブタイミングも変化するのでまたこの作業のやり直しです。まだ1気筒目をやっているだけなので、この後6気筒全部についてやって行きます。
再度バルブタイミング取り直しています。
最終的に
IN 33.0-232.0 中心角99.5度
EX 235.0-30.8 中心角102.1度
これはタートルリアルの推奨値
IN中心角 100.5度より1度早い設定にしています。カムチェーンも新品だしスプロケも新品、ロッカーアームも新品なのでこれらは全ていずれカムタイミングが遅れる方向に推移するのでその分の事前折込となります。
話が飛んでいますがこの後フロントカバー付けたりクランクプーリーつけたりするので、クランク角基準としていた透明分度器と指針は取り外すのですがそのとたんに正確なピストントップはわからなくなってしまいます。今更ヘッドはぐってピストンの頭にダイヤル当ててなどということは出来ません。
その保険としてこのような対策をしておきました。クランクプーリにタップ立ててこのステインレスの分度器を取り付けます。この時クランクプーリーの位置決めキーがガタがほとんどないことが必要です。
そしてどこかに指針をセットして、IN側のバルブ1mmリフトの時の角度を再現してそこから逆算してピストントップをセットします。何度か繰り返しましたがかなりの再現性でこの時点でもピストントップを見ることができるようになります。 この方法の危惧点はクランクプーリーにガタがあると再現性が落ちることです。