このページは、今や貴重と成ってしまった初期240クロス ポルシェシンクロのFS5C71Bのレストアについての記録です。

240クロスでもワーナーシンクロはまだときどき見かけますが、ポルシェシンクロは操作感の評価はいまいちでしたので生存数は少ないと思いますが、性能はワーナーよりはるかに上との評価もあります。今回ここを確認してみたいと思います。

FS5C71Bの外観です。3分割のものと2分割のものと有りますが、これは2分割ですね。この後分解していきます。

交換するベアリングやシール類一式です

分解前の全体図と、内部のASSYの状態です。分解については多くの前例がウェブで見れますし、難しくはないのでここでは端折っています。これより組立の第一段階からやっている内容を記録しています。

この治具にセットして作業します。治具は手製のオリジナルです。剛性が心配でしたが、思ったより強度があります。

いよいよアダプタープレートへ組み付ける準備です。アダプターにメインシャフトベアリングを打ち込んでプレートで止めます。それにしてもこれらのベアリングにはベアリングメーカーの製品ナンバーが刻印されていますが、市販のものと同じなのでしょうか?同じならベアリング屋さんの方が安いかも。バックのアイドラーシャフトを同時に止めます。プレートの固定は十字の皿ネジでしたが、溝がつぶれやすいしショックドライバーではトルク管理も出来ないので、新型用トルクスネジに交換します。写真ではトルクレンチが空中で浮いていますが透明人間がいる訳ではありません。トルクは230kG/cMで締めました。そのあと緩み止めの為にネジの淵を2箇所ポンチで潰してカシメます。

ポルシェシンクロ(上)とワーナーシンクロのメインシャフトの違い。3箇所のシンクロ勘合部のスプライン幅がポルシェの方が長いです。また左側のフランジ径が48MMと52mmと差があります。従いましてポルシェタイプはワーナータイプを流用できないということになります。逆はOKのようですが。このシャフトは今後品薄となると貴重です。 

 

2速シンクロです。2速は使用頻度が多いためシンクロリングの磨耗が激しいです。今回は新品が出たので交換です。ただし部品価格が非常に高いです。

3速ギヤとシンクロ部品及びベアリング。右側は固定用Cリング。上がシンクロリング なにか特殊な金属で出来ているようです。それにしてもどうやってこの構造を思いついたのでしょうか?

ゲルマン人はやっぱり頭の構造が違うようです。

この状態でシンクロリングの磨耗状態をチェック。いちばん上の3速用シンクロリングはほとんど磨耗していません。

・左上がニードルベアリング。この時期は2列のニードルですが、この後1列の1本ものになっています。そしてDR30などの後期FS5W71Bではさらに幅が3mmほど長くなっています。ここから判断すると出力が増すにつれてここに無理が生じてきたのですね。単純に考えても1本ものの方が荷重を受ける面積が増えるので耐久性が向上するはずです。今回は寸法が同じと判断して(計ったわけではないが取り付けはできたので)1本もののタイプに変更しますがかなり無謀でしょうか? ただし軸の径は34.97mmでどちらも一緒でした。

・中央が 3速ギヤで、その左右がブレーキバンド、上下の小部品がスラストブロック、右端がサークリップです。

・またシンクロリングは1・2・3・4速ともに共通で裏表もない様なので、この中で組み替えて行きます。つまりいちばん磨耗しやすい1・2速に磨耗の少ない3・4速と交換していきます。5速は径が違います。

2速を組み付け。内部のニードルベアリングは交換

2速の右にシンクロハブやスリーブなど組み付け、その後1速を組み付ける。 同じく内部のニードルベアリングは交換です。1速の右横には周り止め付きワッシャーを取り付けますが、シャフト打ち込み時周り止めのボールが落ちないようグリースを塗りさらに針金で仮止めします。落っこちてボールがどこかにいってしまうと探すのが大変です。

次に写真下側のカウンター側です。右側のベアリングは交換しておきます。

左端にフロントベアリングとカウンタードライブギヤが付いていたのですが、取り外しておきます。カウンタードライブギヤは2個の半月キーで回転止めされています。この状態で上下2本のシャフトをアダプタープレートに打ち込んでいきます。

メインドライブサブASSYとカウンターを同時にアダプタープレートに打ち込んでいきます。同時でないとギヤどうしが干渉して作業できません。

3速のシンクロ駆動側です。右側の三角形の部品が左のリングの3箇所の溝と勘合してスライドしています。そこでこのリングの3箇所の溝の裏表角部夫々3面にわずかに面取りをしてスライドするときに引っかからないようにします。 それにしても150馬力をわずかこの3箇所の出っ張りで受け止めるのですね。順路としてはリング状の部品がギヤと勘合し、3箇所の溝でかみ合ったシンクロハブがメインシャフトのスプラインと勘合して動力を伝えます。 左側のワッシャーで押さえてサークリップで固定しますが、取説ではこのサークリップはスラスト方向のクリアランスを最小にする(0~0.18mm)為厚みを選択することになっています。他部品と混同注意です。 しかしながら、今回の個体はギヤのスラストクリアランスはシンクロハブ肩が当たり規制されてしまい調整の余地がありませんでした。初めからこうだったのかな?ここはこのままにしておきます。

メインシャフト先端のメインドライブの部分です。左側のベアリングをサークリップを外してから抜き取ります。シンクロは結構減っています。このシンクロがかみ合うことで4速直結となりますね。右側のニードルベアリングが中に入っていますのでこれも交換します。

メイン側は3速を入れたあとシンクロを取り付け、ワッシャをいれてスナップリングで固定します。その後メインドライブを取り付けますが、同時にカウンター側のドライブギヤを打ち込みながら取り付けていきます。少し厄介な作業ですが、確実に進めます。メインドライブが落ちてきますから注意が必要でできたら何かで吊り上げていた方が良いです。

もっと確実にやる方法は立ててやることですが、面倒なのでこのまま行きました。

次にアダプタープレート右側の組みつけです。上の写真はメインドライブ側のリバースと5速のセットです。左上のシンクロスリーブはリバースギヤを兼ねていますが、このギヤのサイド全周に軽く面取りをします。でないとシフターが削られてしまいます。中央の5速ギヤのシンクロリングは1-4速とは直径が異なります。しかも製造廃止となっています。やばい。ニードルベアリングは交換です。右端の大きなネジはM38という特殊サイズでめったに工具がありません。手に入れるのに苦労しました。ここはモンキーレンチでは力が入らず締まりません。また前期は右ネジですが、後期から左ネジに変わってます。これはゆるみ止め対策ですね。

5速を組みました

メイン側は5速の右側にワッシャーを取り付けM38のナットで締め付けています。その右側にベアリングをスナップリングで固定しています。カウンター側はリバースギヤと5速のギヤを取り付けてベアリングを入れた後ナットで締めます。ここは通常の右ネジです。その手前はリバースアイドラギヤです。

これはリバースのアイドラギヤですが、今回はこのギヤがだめなのが主な不具合でした。ここはシンクロが無いのでよくギヤなりしますがそれがひどいと右側のギヤのように磨耗してしまいます。光っているところが平坦になっているのが分かりますか。本来はR形状です。そしてこの磨耗したカスはミッションの中を荒らしていきます。私が見たたいていの71Bはこのようになっていました。これも製造廃止です。やばい。 わたしは左側のようにペンシルグラインダーで気長に成形しなおしまして復元しました。

ギヤ類は組み付け終わったので、バックラッシュを測定します。画像のようにダイヤルゲージをセットしてどこかのギヤをロックして、計りたいギヤにダイヤルを当ててギヤを動かして測定します。結果 ドライブ0.18 3速 0.14 2速 0.22 1速 0.10 5速 0.08 となりました。基準 0.20以下ですが、2速以外はOK 2速もこのレベルにしてはまあまあ許容レベルですね。

これはシンクロスリーブを動かすシフターですが左はポルシェで右がワーナーですが、非常に似ていますが互換性はありません。ワーナーは固定用スプリングピンの径が大きくなっています。何か不都合があったのでしょうか?このスプリングピンはこの後さらに後期になると2重打ち込みになってゆきます。ピンの事故が多かったのでしょうか?あまり聞きませんね。またシフターの材質は当初は鋳物ですがだんだんアルミに変わっていきます。ここを軽量化しても知れているので、やはり折損等の事故があったのでしょうか?とにかくこのあとシフターはどんどん巨大化していきます。71Cのときには3倍くらいの大きさになっています。

シフトロッドです。少し錆が出てきています。しばらく乗らないとこんなところにも錆が出るのですね。やはりミッションオイルも定期的に交換が必要なんですね。錆をまずペーパーで磨いて落とし、次に各部のバリや尖りをやすりで修正していきます。特にロッド右側端の部分はケースの中でスライドしますので、ダイヤモンドやすりで角を丸くしていきます。もう一箇所、中央部の2箇所の溝の左側の溝はシフトの中立や2重勘合を防ぐチェックボールが入りますが、ここも加工しっぱなしで鋭く尖っていますので、角を軽く面取りR付けします。

面取りしたところです。ボールが通ったところはつぶれて盛り上がりが発生しシフトスライドを阻害していました。ここも削って修正。

なんでこんなのをどんどん別のに交換しないんだって?

ポルシェシンクロ用はなかなか代品がないんですよね・・・・

これが

同様にシフトロッドを修正し、組みつけていきます。

上の画像で一番下のロッドの中央部に切り欠きがありますが、これはバックランプのswをonoffする所です。

この位置が71Bでは2種類存在します。今のは後ろ側に付くタイプです。ベルハウジングがこれとあっていないとバックランプがつきません。 

これでギヤ側は完成です。このあとミッションケースのフロントカバーとリヤエクステンション後ろ側のオイルシールを交換します。

ミッションが油まみれになっている場合、このシールからの漏れが考えられます。このギヤASSYとミッションケースへの組み付けは難しくありませんが、組み付け後メインドライブ前側のベアリングにCリングを取り付けること、そしてカウンター前側のベアリングのケースからの飛び出し量を計って、フロントケースの凹みと勘案してベアリングの前に0.5MMくらいのシムを入れます。これはクリアランスにより選択制になっています。少しぐらいガタはいいんでしょうけど、突き上げるとフロントケースの破損や、オイル漏れにつながりますよね。

以下、ミッションケースとのあわせ面をすべて脱脂して液体パッキンを塗ってケース内に収めボルト止めしますと、分解前と同じ姿に復元できます。

ケースに組み付け終わってミッションオイルの注入プラグを外そうとしてみたら、こうなりました。最初はモンキーレンチで慎重に回そうとするのですがびくともしません。プラグの再利用はあきらめてパイプレンチの出番ですが、プラグの材質がやわらかく、ずるッと滑ります。もうだめです。

最後の手段が登場です。

工具の神様がいるならきっと怒ります。でもこれしかないよね。

やっとバキッという甲高い音とともに緩みました。Nさん、こんなに締めないでください。

とれんプラグ いや ドレンプラグ用のソケットです。日産ディーラーでは、受注生産のようになっていましたので、インターネットや工具屋サイトで探しましたが見つかりませんでした。昔 通っていた市内の工具屋 ○亜オートツールでだめもとで聞いてみたらありました。さすが20年続く工具屋だけのことはあるなー。

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