2016年3月16日
今回は3分割71Aミッションオーバーホールです。ショップさん経由で頼まれたのですが、いろいろお話してゆくと同じクラブ内の240Zでした。
ミッションの入りが悪くなっていたということで、普通に走れれば良いということで今回は費用は抑えてあえて2分割71cコンパチ化せずに普通にオーバーホールです。
まずは分解して現状を把握します。
長年の摩耗跡がたまってこのように。
全体的には損傷はないようでシンクロ舳先の変形も少なく丁寧な使用状態であったと思われます。
ただやはりこれもどこかでオーバーホール履歴があり、このM38ナットはタガネ攻撃を受けています。とにかくめちゃくちゃに締めこんであり、相当緩みを警戒していたようです。
5速のシンクロは新品がないので困るところですがこれはまあ使えるレベルです。
前回オーバーホール時に一度裏返しているようです。これは1-5速すべてのシンクロについてそうで、部品の経費削減ではありますが、ここは新品があるならもちろん新品にしたいところです。
3速ですがもう限界状態です。2速も同じような状態でシンクロへ溶射された特殊合金が取れてしまって地肌が出ています。こうなるとスリーブがかぶさってきたときにシフトがすごく重くなる、壁に当たっているような現象になります。シンクロリングは摩擦力が必要ですが適度な滑りも必要です。無理やり押しているとシフトフォークが壊れます。
シフトフォークは1-2、3-4ともに爪の部分が溶射が削れて地肌に0.5mmほど食い込んでいます。
フォークがかみ合うスリーブですが爪が当たる溝はやはり0.7mmほど削れています。もう使えないレベルです。
シンクロが少し摩耗した時点で対処していればここまで破損しませんが、無理するとどんどん影響が広がります。
これはセンターのアダプタープレートの一番メインのベアリングですががりがり回転抵抗が出ていて限界でした。他のほとんどすべてのベアリングもそうで、やはりこのオープンベアリングは弱いようで、上記の摩耗金属がオイルに乗ってくるのでやられてしまいます。
バックアイドラーギヤも定番の状態ですが、これは前のオーバーホールで手直しした様子があります。
グラインダーで角を面取りしてありますが、新品部品はないのでこれはこのまま行けるでしょう。
組付けに入ります。
貴重なシンクロリング
ブレーキバンド
ニードルベアリング
すべて新品交換
5速のM38ナット前の5速のギヤスラスト受けにオイル溝を追加工しました。
M38ナットの緩みは泣き所だったようで、71Cでは最終的にここにスラストニードルベアリングが設定されています。コンパチ化するとその仕様になります。
5速ギヤのスラスト面が焼き付き気味になるとM38ナットが緩みやすくなり、緩むと5速ギヤがシンクロスプラインから抜けて空回りすることになります。
今回はM38ナットに私の編み出した技、サイドロックボルトで緩み止めします。
ベアリングはすべて最新の71Cと同じシールドベアリングに交換しました。
ギヤ部の組み付け完了
ギヤ精度
エンドプレイ 0.20 0.19 0.13 --- 0.22
バックラッシュ0.13 0.12 0.06 --- 0.12
バックラッシュは申し分なし
1速とのエンドプレイが少なめですがナットの締めすぎですでにカラーがめり込んでしまった結果ですが、
大丈夫と思います。
フォークは手持ちの中からこれを探し出します。
左が今までの3-4フォークで、右がスペシャル3点受けフォークです。これもあと数本しか在庫がありませんが、スリーブを3点でしっかり押すことができます。
1-2も3点受け化可能ですが、今回はあまり負荷がかかっていなかったので通常の2点受けの程度の良い在庫品でリプレイスしました。
リヤエクステンションのシフトリンケージ部を分解してすべてのオイルシールを交換します。
シフトの左右の動きをコントロールするピンのオイルシールを若干太いものに変えてオイル漏れ防止
完成です。
この後簡易試験機e-zanaraizerで1500RPMで1時間回してオイル漏れ、チェンジ、電気負荷、油温の上昇具合を見ます。
問題ないようです。
2016年5月11日
上記と同じ方からこのS20エンジン用71A3分割のオーバーホールを追加で頼まれました。
分解してゆきますが気になる点だけ記述してゆきます。全体的にはベアリング、ギヤなどのパーツは新し目で間違いなく一回以上開かれています。
フロントケースを開けるとこんなヘドロ様のものがたいてい出てきます。
リヤエクステが全く抜けないのでおかしいなと思って引っかかっていそうなところを見てみるとこの奥に何やら見慣れないものが・・・・。
なんとこんなところにサークリップが入れてあります。クリップ溝がないのに何で入れたんでしょう???。
その後ろにあるワッシャーも入れるところが間違っています。最後にこの2枚が余ったので取りあえず入れておいたんでしょうか??。(訂正:溝はよく見るとありました。でもここにサークリップ入っているのは見たことありません)
ベアリング外周側オイルシールが撃ち込まれるアルミのケース内周にもいろいろ傷が入っていることが分かります。
そしてこのスピードメーターギヤは両面ともこのようにボコボコです。理由が見当つかないです。
そしてやっぱりこのタガネ攻撃。この時期にはこの「タガネで叩くと絶対に緩まないぞ」みたいな情報というか流行というか迷信みたいなものがあったのでしょうか?
そしてこの周り止めワッシャの舌が取れてしまっていて意味をなさない状態です。原因はなんとなくわかりますがナット締め付け時にワッシャーも一緒にに回ったことにきずかずにねじ切ったんだろうと思います。
2速のシンクロはもう金属地肌が出ていてもう寿命という感じです。
3-4スリーブはやはりこのように段付き摩耗しています。何か設計的な対策が必要だった思います。
シフトフォークは思いのほか減っていませんので交換されているようです。
4速というか一次減速のカウンターギヤですが3か所にこのような欠けがあり何かが噛みこんだようです。これはハンドワーク修正で治る範囲だと思います。
1-2速のスリーブ 3か所の歯が大きく欠損しています。これは再使用不能です。
今までのは私のグチみたいなもんで大したことではないですが、これはちょっと深刻です。
カウンターシャフトリヤーのベアリング打ち込みシャフト部がなんと手で削って修正してあります。大きなかじりくぼみもあり焼き付いた感じですが、手で削って直したとは・・・・。
当時ならまだ新品入手できたと思うんだけど。
まだ真円部が1/3くらい残っているので何とか使えるかなのレベルです。無理すると壊れます。
これは純正クロスギヤですので今やおいそれとはカウンターギヤの中古さえもないです。
そしてこれも致命傷ぽいですが1速のスラスト受け面が焼き付き寸前です。これだと時々ギヤが入らない、あるいは抜けないなどの症状が出ていたと思います。全ギヤ常時かみ合い式なので一か所でも焼き付くとデフまでロックします。
これも通常の71Bならばたくさんスペアありますが71Aの純正クロスギヤとなるとめったにないし、値段も高価です。
修正は何とか効くかなのレベルですがどうしましょう。
上記1速のスラスト受け面はこのハブの面となりますがもちろんかじっています。ただこのハブは共通なのでスぺアは何とかなります。
以上前途多難ですが、この中でカウンターシャフトと1速メインギヤは他のクロスギヤから移植することも可能ですがその場合クロスギヤ一式分のパーツ代を覚悟しなければなりません。
もう一つの選択肢は何とか修復して使うかですが、走行時無理ができなくなるのでオーナー様の了解の元で選択する必要があります。
依頼主様と相談したところ、破損パーツは修正ではなく、ほかの良品(中古)にしたいとのことで在庫の71Aを一基ばらしてパーツ抽出です。
これは一速。なかなか程度の良いのが出てきました。
1-4速についてはポルシェシンクロのシンクロリングとブレーキバンドを新品に交換します。
かじっていたハブは良品と交換。
スリーブはWPC処理品
下側カウンターはドナーから摘出しました。
どんどん組んでいきます。
途中で間が空いたり、ほかのことに気を取られるとミスが出やすいのでとにかく集中して一気に仕上げるようにしています。部品はその前にすべてそろえて置きます。
破損していた周り止めワッシャーは切り出して製作しました。
ギヤ部は組み付け完了して精度チェック。
エンドプレイ
1st 2nd 3rd 5th
0.15 0.17 0.10 0.04
バックラッシュ
0.06 0.05 0.03 0.07
良い値です。
71AでもM38ナットは私の編み出した技、サイドロックボルトで完全に緩みを予防します。
周り止めワッシャーもこの後耳を加締めます。
2重ナットもあるので緩みはしないと思います。
そして71Aの弱点3-4速のシフトフォークについて3点支持品に交換してゆきます。
左が純正の通常の2点支持フォークですが爪が180度まで伸びていませんから当然シンクロスリーブは傾きを受けてしまいます。その結果ギヤが入らなかったり、最悪の場合スリーブの歯が欠けます。右の3点支持は又のところにもう一つガイドがあるので効果は一目瞭然ですね。
今回1-2速は2点支持のままですが、3点支持は今やパーツが希少なので頻度が多い3-4速へ対策します。
ケースに組みますがリヤエクステは今までの分解履歴のなかで合わせ面がボコボコになっていました。
仕方なく通常は塗らない液体パッキンと紙パッキンを併用します。
完成しました。