さて次はフロントベルハウジングのこの部分
ここも71Aの鬼門でできたら触りたくない部分です。71Aのこの部分で最も問題なのはこの通称天狗の鼻と呼ばれている部分、ここをクラッチベアリングスリーブが摺動するので絶えずスラスト方向に力を受けます。また内側ではメインシャフトベアリングが接しているため絶えず回転方向の力を受けます。それに対してこの天狗の鼻はアルミベルに打ち込みとなっているのですがその境目からオイル漏れが頻発します。(71Bになってこの部分はフロントカバーとして一体分離パーツとなり鋳鉄製に設計変更されました) ここにはオイルシールがあるのですがほとんどの個体でこのように三角形のオイルシールと化しています。これではオイルを防げません。ひどい場合はこの天狗の鼻が緩んでしまいベアリングと連れ回りするようになりフロントベルの打ち込み穴側が削れてしまい、貴重なS20用ミッションのフロントベルがお釈迦となる場合も稀ではありません。
私はここのオーリングは現代の耐熱性と耐久性の高い材質を選び出し、オーリングの線径を少し太いものに変更して交換します。(天狗の鼻が緩んでいる場合だけです。緩んでいない場合はそのままそっとしておいたほうが問題が少ないです。)
ここに入っているべきベアリングのスラストシムが分解したときは入っていませんでしたが、全バラしているときになぜかリヤフランジの前にあるベアリングのところに入っていた?のを発見したので、それを元に戻してくるとシム厚もドンピシャで使えたので、このシムの調達にじたばたする手間が省けました・・・。
ブラストしたケースに組み込んで回転試験まで来ました。回転もシフトも問題なくできます。シフトが少し硬いですがポルシェシンクロの場合はこれは宿命です。最初から緩かったらシンクロ作用は以降どんどん落ちてゆくだけですから。シンクロリングも新しくしたしシフトフォークも3点支持にしたのでもうこれ以上することはギヤやスリーブを新品にする以外は有りません。
反対側から
いつもクラッチディスクの摩耗粉とオイルで真っ黒べたべたになっているベルハウ内もパラポラアンテナのように光っています。
分解前に測定を行います。
トータルプリロードは”0” つまりがたがたです。
バックラッシュは0.18とかなり大きめ(プリロードが無いこととオイルが固いオイルなのではっきりとは測定できなかった)
LSDイニシャルは2.5kgとほとんど効かない状態です。
刃当たりは画像の逆転エンブレ側がトー側に逸脱しています。レベル2です。ピニオンベアリングが摩耗してくるとこういう傾向になります。こうなるとアクセルオフ時に異音が出やすくなります。
オーバーホールを進めています。
組み込んでサイドベアリングのプリロード調整をします。シムで行うのですがこのシムも日産純正は製造廃止なので私は復刻製作して調整しています。(シムは販売もしています。0.1、0.15,0.2mmが有ります)画像ではサイドフランジを取り付けている画像ですが実際はオイルシールの摺動抵抗をなくすため付けない状態で調整します。良くバックラッシュの調整という話は聞くのですが、ベアリングにプリロードが無い状態でバックラッシュ調整しても何の意味もありませんのでご注意を。バックラッシュとプリロードはセットの調整ですのでプリロードがいくつでバックラッシュがいくつだ というように表現すべきですね。今回はプリロード3.6Kgでバックラッシュ0.13~0.16となりました。
同じオーナー様からご依頼の
2023年5月30日
71A3分割スペシャル γ43 SR311
三重のショップさんから一辺に3台のミッションを依頼されました。まずはその中の1台です。
SR311用ミッションで、フルバージョンでのご依頼ですので71A3分割としてはマックスの仕様となります。
・大きくは ポルシェシンクロからワーナーシンクロに変更するγーWバージョン
・外観的にもきれいにしたいのでブラスト加工実施
となります。
マックスですので
・5速裏スラストニードルベアリング構築
・3点支持シフトフォーク
・シフトロッドオーリング2重化
・コントロールピンオーリング設置
等々となります。
現状はかなり外観的にはオイル漏れがひどい状態です。
ハウジング内もやはりこのようにオイルとクラッチディスク粉の混ざったものが堆積しています。
シフトリンケージ部も汚れています。
ギヤ部を取り出しました。
すべてワーナー仕様に交換してしまいますので、この時点での些細な破損はあまり問題にはなりませんが、今回の場合は大きな支障はないように見えます。
71Aの場合今のところこの5速部だけはどうしても改善手段が見いだされませんので、現在がどうであるかは重要ですが、この個体では5速は健全に残っているようです。