2022年11月23日

71Aスペシャルγ38-W 製作

 このところ71A3分割ミッション修理のオーダーが増えています。今回はHS30240Zの71Aミッションとなります。

 

プロペラシャフトの前側のみ付いた状態で送られてきました。

フロントベルハウジングです。それほどクラッチプレートの摩耗粉で真っ黒になっていないし、オイル漏れも全くないです。

分解してゆきますがこのプロペラシャフトの固定ボルトナットがかなり強く締めこんであったようでほとんどナットが舐めかかっています。こんなにむやみに強く締めこむ必要はまったくないのでこんなことしないようにしましょう。

これはフランジタイププロペラシャフトのフロント側のみのパーツでここで引き抜いてミッションと一緒に送ってきているのですが、このパーツの中で十字ジョイントはもう使用がためらわれるほどの固着が見られます。これがただの不要なパーツでたまたまミッションと一緒に保管していただけならこのまま使用することは無いので問題は無いのですが、もしこれをこのまま使う予定ならばそれはNGです。

ミッションマウントですがこれもミッションと一緒についてきましたが、見てわかる通りゴム部分がもう末期的状態ですので再使用は無理でしょう。

クラッチフォークとレリーズベアリングです。

クラッチフォークは亀裂が入ったらしく涙ぐましいほどの修理痕が見られます。

クラッチベアリング

最初は固まって動きませんでしたが、CRCを隙間という隙間に吹きまくって何とか回るようにはなりましたが回した感触はざらざらしていてちょっと再使用はためらわれます。

フロントベルハウジングを取り外しましたが、ここは殆んどの場合このようなヘドロの様なオイルで汚れています。オープンボールベアリングの隙間からしみ込んだミッションオイルの行先のない墓場のようになっています。

ドレンプラグのマグネットにはこのような盛大な量の鉄粉が吸いつけられています。ただ、決定的な金属片の様なものは出てはいないです。

リヤエクステンションを取り外してすぐにこのミッションの問題点がわかりました。やはりこの71Aの持病であるM38メインシャフトナットの緩みが起こっています。M38ナットは緩んだ状態で後ろ側のボールベアリングの位置まで下がってそこに突き当たって止まっています。そしてこのようになると最も恐れていることなのですがその前側(画像では下側)の5速ギヤのシンクロスプラインが抜けてきています。M38ナットがしっかり締まっていればこのようにはなりません。

これが5速ギヤの拡大図です。完全にスプラインから抜けていますので5速は空回りしてしまい前進できないしひどい異音がしていたと思います。

5速のスラスト面後ろ側

殆んど焼き付き寸前です。

そしてその反対側

 5速のスラスト方向のガタが20mm近くできてしまうのでその中で運転すると5速ギヤが軸方向に激しくたたきつけられるのでスラスト面がこのように焼き付き変形して末期的状態になってしまいます。5速のシフトストロークが異常に大きくなったなどの時に修理すればまだここまでは損傷しないのですが、そのまま無理をして運転するとこのようになってしまいます。この5速ギヤはこのままでは使えないので他の部品に交換することになりますが、今現在71A3分割の5速ギヤはめったに市場には出てきません。 どうしても手に入らなければこのギヤを無理を承知で修正して使うしかないですが、どこまで焼き付かずに持つかは保障ができません。

メインインプットギヤ

ここはあまり異常は見られません。

3速ギヤ

シンクロの異常摩耗もあまり目立たず、普通の状態です。

カウンターギヤ

これも問題なし

1速、2速ともに問題なし

バックアイドラーギヤ

舳先形状が無くなってほとんどまっ平になっています。

これではバックにシフトできていたことが不思議なくらいです。ガリガリしながらバックにシフトし続けるとほどなくこのような状態なります。

3分割ミッションのケース達

組み立てに入ります。

各ギヤはポルシェシンクロからワーナーシンクロへ変換するために準備しています。

右下のハブとシンクロはワーナーシンクロ用でこれが無いと組めません。

ギヤ類をワーナーシンクロ化しました。

 焼き付いていた5速ギヤはオーナー様とのご相談で今回は修理して使う事に決まりましたが、この場合寿命とか性能は保証できないですが、とにかく動くようにはします。

完全に焼き付いていた5速ギヤ

旋盤に咥えていろんな方法で焼き付き部を取り除いていきます。焼き付くと表面だけでなく両脇にも焼きなまった鉄材が垂れてきますのでその部分を取り除きます。追加工してゆくわけですからその分ギヤスラスト面の厚みは減ってゆきますので、エンドプレイが増してくるのでほどほどにしておかなければなりません。

5速ギヤの裏側も同じように加工してゆきます。

そしてさらに5速ギヤのスラストを受け止めるハブも同様に焼き付いていましたのでこちらも仕上げます。

まだかなり焼き付き面が取りきれず残っていますがこれくらいで良しとします。

1-2速を組付け

ポルシェからワーナーへの変換で気を付けなければならないところとしてスプラインを抜き替えるので慎重にやらないとスプライン内径が変形する場合があります。その結果内径が縮まりニードルベアリングを挿入してメインシャフトに組むときにクリアランスが重くなる場合があります。ベアリングですので気が付かずに強く押し込めば組めてしまうのですが、それでは後々ほどなくしてニードルベアリングが焼き付き音が出るようになり破損に至ります。

 私はここは何回も確かめて内径縮みの傾向があるようでしたら内径を研磨仕上げして修正します。

1-4速まで組みました。

71A5速ミッションを組み替えていますのでもちろんギヤ比は71A5速ミッション(=240クロスとほとんど同じギヤ比です)のままで純正のクロスミッションとなります。ワーナーですけどね。

リヤ側の組付けに入りますが損傷のひどかったバックアイドラーギヤは右側のある程度良好な代品が見つかったのでこれに交換してゆきます。

5速ギヤを組んでいきます。5速はポルシェシンクロのまま残ります。ここは今までに何回もワーナー化にチャレンジしたのですが結局有効な手段が無く今に至ります。大きな原因はカウンター側シャフトが71系の中で71Aだけが太い(というか71B以降細く設計変更された)ことがネックとなっています。

5速ギヤの焼き付き防止のために私が考え出した方式 「5速裏スラスト」 方式で万全にします。こうすると5速ギヤのこちら側のスラスト面は損傷が合っても直接はスラスト力をうけなくなるので、損傷を救う事ができます。

さらに、今回の直接の故障の引き金となったメインシャフトのM38ナットの緩みですが、画像のようにこれも私の考え出した技「サイドロックボルト」で撲滅します。ロックボルトの締め付け面にはロックを確実にするある工夫をしています。

シフトフォークの組付けに入ります。

これがノーマルのシフトフォークですがこれだとシンクロスリーブを平行に押すことができずシンクロスリーブが傾くという事が起こり、それがシンクロスプラインの破損に繋がります。良く一発でシフトできず一旦レバーを戻してシフトしなおすとすっと入るというようなときはスリーブの傾きが起こっている場合が多いです。

結果としてシフトフォークの爪先がこのように段付き編摩耗します。シルバー色のものは溶射された高耐久表面材ですが損傷がひどいとそれがはがれてしまい、後はあっという間に侵食されてこの金色の地金がむき出しになってしまいます。ミッションオイルの中にギラギラした金粉が浮いている場合はこの部分の摩耗粉である場合が多いです。

私はこの対策として画像の3点支持フォークを使うように改造してきています。スリーブ受け面が3か所になるためずっと安定してスライドできるようになります。

ギヤ部分の完成です。

ギヤ精度

  1ST  2ND 3RD      5TH

エンドプレイ

0.15 0.13 0.16 ー-- 0.28

バックラッシュ

0.06 0.15 0.15 ー-- 0.07

結果的には焼き付きのあった5速のエンドプレイが少し大きめではありますが、ほかは素晴らしい値に戻ってきています。よかった。

ミッションケース側の整備

ここも71Aの泣き所です。

設計としては高級ですがここまで古くなると摩耗がひどくなります。71Bではここはそっくり設計変更されています。

シフトロッドが前後するたびにオイルを掻き出してくるこの部分、純正はオーリングが1本あるだけですが私はここをオーリング2本に改造しています。

シフトレバーの左右の中立を出すプランジャー

ここもオイル漏れの多いところです。

S30Z用になってからここに1本オーリングが付きましたがMこの前のSR311の時代にはこのオーリングさえなかったのでオイルダダ洩れでした。

そのオーリングなんですが画像のようにブレーキピストンシールのように四角の物体に変化してしまっています。四角シールに替えたのかなと思い取り外してみたら内側は丸い部分が残っていました。

私はここの部分は改造して画像のようにオーリング2本にしています。これでかなりオイル漏れは少なくなることでしょう。

ストライキングブロックを組付け。

フロントベルハウジングです。

ここでの問題点の出やすいのは中央にある天狗の鼻=クラッチベアリングがスライドするところ が打ち込みが緩くなってぐらぐらになりひどい場合は抜けてしまいます。裏からスペーサーを介してベアリングで押しているのですが、ベアリングの動きがおかしくなるとここに影響が来ます。この個体は打ち込みがまだしっかりしているしオイル漏れも見られないのでこのまま分解しないで行きます。特に大きく摩耗するところではないので問題が無い場合はそのままのほうが良いです。裏側にあるオイルシールは交換します。

こちらが天狗の鼻を抑えているところで、このようにクリアランスを測りながら下に見える丸いスペーサーの厚みを調整して天狗の鼻をしっかり押さえるようにします。この天狗の鼻を抜くとケースとの間に大きなオーリングが入っていますが、大部分の場合三角形に変形しています。私はここのオーリングを仮に替える場合は、わずかに径の太いオーリングを探し出していますのでそれに交換するようにしています。今回は問題ないのでこのまま。 上に見える少し小さい丸のスペーサーはこれもカウンター側のベアリングクリアランスを調整するものでクリアランス測定して最適の板厚のものを使います。このときの注意点は紙パッキンを付けるのでその板厚をどう加味するかですね。ちょっと 紙と加味 で ラップ=韻を踏む をやりました。