2024年4月23日
71A SR311用オーバーホール
SR311用として今回はオーバーホールで依頼されました。オーバーホールは使えるものは再利用して元どうりに組み戻すというバージョンです。
従いましてγバージョンのようにすべてお任せで考えられる改善対策をすべて織り込むというやり方ではないので、まずは現状を調べてどこまでを流用して組み戻すかを相談する必要が有ります。そうしないと費用面で不一致が出てしまう可能性があるからです。
早速チェックに入りましたがまずはいきなりこの画像で通称 天狗の鼻 が無いことに気付きます。
これはパーツを何とかしなければなりませんが、私もほとんどのパーツは在庫していますが、オーナー様もほとんどの場合パーツを保持しているのでそこもどうするかは相談となります。
プロペラシャフトと結合するフランジですがボルト穴がかなり変形しています。このまま使えないことはなさそうですので検討です。代品のパーツは探せば出てくることは出てきます。
ミッションマウントと結合するボルト穴、入り口側がかなり摩耗しています。奥の方にはまだしっかりネジが有るのでちゃんとしたボルトで奥の方にまで締めこめばこのまま行けるかも。 このネジは細目なので良く並目ボルトをねじ込んで破壊されている場合が有ります。左右両方とも同じ状態でした。ちゃんと治すにはヘリサート加工をすることもあります。
シフトブロックの部分
結合ピンがボルトを加工したようなもので代用されています。これでも動作に問題はなさそうですので良いかもしれません。ただこのボルトの材質が何なのかわからないので摩耗は心配ではあります。このようなスモールパーツも在庫は持っていますので交換も何とかなることはなるのですが、今のままでも問題は無さそうです。
エアブリーザーが付いていません。これは今現在は71A用純正=71B純正は製造廃止ですので出てきません。私は中古の純正か、金属製のもっと丈夫な代用品に交換する場合が多いです。
これはセルモーターの取り付けネジですがやはり入り口の部分が摩耗が大きいです。2か所ともです。ここもボルトが奥まで入れば問題は無いようです。ちゃんと治す場合はやはりヘリサート加工をする場合が多いです。
ケースを分解しています。この71A3分割はケースの合わせ目に3枚入るはずのガスケットが1枚も入っていませんでした。この次の世代の71Bはガスケットを使わないので71Aでもガスケットなしでもオイル漏れはしないかもしれませんが、71A純正では本来はガスケットが必ず入っています。ただポリシーでガスケットなどという不確定要素は付けるなという信念のもとにガスケットを使わないのならばそのままにしておかなければなりません。ガスケットは純正が入手可能ではあります。
またここに見えるボールベアリング類ですが割れていたり玉が飛び出していたりはしていないので再利用しようと思えばこのままで組んでゆくこともできるし、問題なく動くとは思いますがやはり長い年月稼働していたものはそれなりに摩耗しているとは思います。私は殆んどの場合これをセミシールドの新品ベアリングに交換してゆきますが、使用状況によってはそこまでは必要ないという考え方もあるかもしれません。そこは思想という事になりそうです。
ギヤ部分を取り出しました。
ぱっと見は大きな損傷は無さそうです。
スピードウォームのスナップリングがずれていましたが、これはちゃんと入れればOK。SR311はこのスピードウォームがM5×1というサイズである場合が有り、パーツとしてはレアとなります。今回もそうです。通常はM6×1です。
その向こうのベアリングを押さえるスナップリングも外れかかっている。こちらはリングが伸びて変形してしまっているようだ。このリングは交換となるでしょう。
シンクロですが4速左側はまあまあですが右側の3速は金属地肌が出ていますので交換が望ましいですが、ただこれでシフトができないかというとそうでもないので悩みます。でもこのままにしておくといつの日にかはシンクロは摩耗しきってしまう事でしょう。
バックアイドラーギヤですがガリガリです。欠けているところもところどころ見えます。71A・Bは殆んどの個体で多かれ少なかれこんな状態ではあります。しかし、これでバックできないかというとそうでもないです。ここも寿命との相談となりそうです。
5速です。
これは非常に良い状態で安心です。なぜなら、5速のシンクロはもう新品は出ないからです。何とか今あるものを使うしかありません。
3速です。シンクロが少し地肌が出ています。この摩耗はこの後じわりじわりと進んでいきます。
1速、こちらのシンクロはわずかに摩耗して地肌がでています。使えないことは無いかな。ひっくり返すかな。
2速です。
こちらは判り易く摩耗していてしかも全周に広がっています。交換が望ましいでしょう。
私はポルシェシンクロの新品パーツをかなりの量在庫していますが、今、日産部品でこのシンクロリングは16000円/1個しますので費用的にはかなり負担になります。
又、ポルシェシンクロの場合シンクロを新品に替えるとシンクロの張りが強く戻るのでシフトが重くなる傾向になります。20000Kmほど使うと調子が出てくるという事情もあります。
そしてこのメインインプット=4速ですが最初はきれいに見えたので大丈夫かなと思ったのですが、
黄色矢印のメインインプットセットに大きな問題があることが判明しました。これは交換必至です。
なんかおかしいなとよく見たらこんなことになっています。
ここから見るとよくわかるのですが、メインインプットのクランクに刺さるところのシャフトをどうも錆びていたのか、あろうことかサンダーで軸に沿ってがっつり削ってしまってあります。これではこのメインインプットは使えません。お釈迦という事になります。せめてサンドペーパーで磨くくらいにしておいて欲しかった。
メインインプットはもちろん新品は出ないし、中古もミッション丸ごと入手しないとパーツだけでは売っていません。メインインプットギヤはカウンター側ギヤとセット交換なので両方交換が必要になります。今回のオーバーホールではここが一番大きな問題かもしれません。パーツを何とかしなければなりません。
リヤエクステンションのシフトコントロールのパーツです。SR311にはこのプランジャーピンにオーリングが有りませんのでオイルが漏れ放題になります。私はなるべくここはオーリングを取り付ける改造をしますが、あまり走らない等でオイル漏れもあまり気にならないという場合はこのままでも行けるかもしれません。
左側のプランジャースプリングは純正とは異なっています。どうもシフトレバーの左側への反力を落としているようでスプリングを細くしています。これも好みの問題となると思いますのでこれでも問題はないでしょう。
オーナー様が71AのL型用ミッションの部品どりを送ってきてくれたため、オーバーホール再開です。
ギヤ部分はL型用のほうが程度が良いので一式L型用71Aから流用することにします。
2速ギヤの比較ですがドナーのほうがシンクロがしっかりしています。
こちらは1速です。
シンクロは裏返して組みなおしました。
SR311の1速は通常はシンクロが片側方向(シフトダウン側だったと思う)しか設定されていませんが、L型用とすることでシフトアップ(1速に入れるだけだからアップとは言わないか)、ダウンともにシンクロが効くようになります。
3速もL型用ドナーからパーツ取で、さらにシンクロを裏返します。
シンクロリングです。
単純オーバーホール指定なので交換せずにシンクロを裏返すことである程度機能を回復します。
単純オーバーホール方式では基本的に使えるものは使うという仕様なので、パーツ代が抑えられるやり方となります。
フロント側ギヤ組
特にメインインプットが支給ミッションは破壊されていましたので、ドナーのL型ミッションから移植することで何とか復元しています。
リヤ側へ行って5速となります。
ここについては逆にドナーのL型用のほうが程度が悪かったです。スラスト面が裏表ともにかじって焼き付き気味ですので、SR支給ミッション品を使います。
M38ナットはγバージョンではサイドロック方式で緩み止めするのですが、単純オーバーホールではこのように純正のままのワッシャー折り返しによる緩み止めとなります。走行距離が短い場合や、高回転まで使わないように気を付けて走れば緩むことは少ないでしょう。
ギヤ部分が完成です
ギヤ精度
エンドプレイ
0.12 0.30 0.05 ーーー 0.17
バックラッシュ
0.13 0,24 0.20 ーーー 0.12
となりました。
先ずますの値です。
シフトブロックのところのオーリングは欠けていたので交換
リヤエクステンション
ベアリングを打ち込んでからオイルシールを打ちこみます。この後L型71Aから取ったリヤフランジを組みます。(SRのはボルト穴が変形していました)
ミッションマウントボルト穴は少し舐め気味ですがこれくらいなら少し長めのボルトを使えば大丈夫でしょう。
シフトコントロールプランジャーはSRの純正のまま組み戻します。このピンにはオーリングが無く素通しなので、今までと同じくらいオイルにじみが出てくるでしょうが、あまり距離を乗らなければ今までどうりとなります。単純オーバーホールではここも純正のままとなります。γバージョンではオーリング追加加工をしますがその分費用アップになります。
完成です。
最終回転試験を実施しています。
2024年7月15日
71Aスペシャル γ48
岐阜オーナー様のSR311用でγバージョンでのオーバーホールを依頼されました。
素材は送られてきたのでまずは現所把握となります。
これによってどのような修理とするか決めるので、この現状把握は大切です。
先ずはこのシフト感に大切なシフトブロックの造りですでにブッシュが欠落していてガタガタの状態です。
シフトのストライキングロッドもお決まりの摩耗が起こっています。
送られてくるほとんどの個体がこんな感じで摩耗しています。代品としてはもちろんないのでこれは仕方ないことになります。
71Aの欠点であるメインシャフトのM38ナットの緩みは、やはりこの個体でもこのように起こっていました。これは最悪の故障状態です。数値的には3mmぐらいはガタが有ります。
このミッションは一度以上オーバーホールされている形跡が有りますので、それ以降の現象だと思います。
ここがこのように緩むと様々な不具合が起こります。具体的にはメインギヤが前後に自由に動いてしまうので本来こすれあうところではない部分がこすれてしまいます。こうなるとそれが抵抗となってシンクロ作用に弊害が出ます=ギヤが入りにくくなる。
バックアイドラーギヤも定番の欠け状態です。
ギヤセットとしてはこんな感じで一見なんともないように見えます。
しかしこれから分解してゆくにつれてほとんどの場合、問題点がいくつも出てきます。
M38ナットを取り外した状態
回り止めワッシャーは付いてはいますがボロボロです。
カウンター側のリヤの止めボルトもほとんどの場合このように平ワッシャーがお皿になるくらい変形しています。
M38ナットが緩んだ影響がこの5速カウンターギヤに見られます。ギヤサイドに何かとこすれたテカリ痕が有ります。これがこすれるところは5速ギヤのシンクロ舳先となります。ひどいときはここが青黒く焼き付き状態になります。焼き付かないまでもこんなところでスラスト方向の荷重を受けたらひどい抵抗を生じます。これが進行するとほとんどの場合5速のシンクロ舳先が抜け落ちてしまい、5速ギヤが空回りするようになります。そこまで行ってもほとんどの場合1-4速はまだシフトできる状態で残りますが、それも時間の問題となります。
これがカウンターとこすれた5速のメインギヤです。径的にこの部分のシンクロ舳先とカウンター5速がこすれるので、通常は舳先が抜け落ちてしまします。
5速シンクロ舳先は良く抜けなかったなと思ってよく見たらシンクロ舳先が全周溶接でギヤと一体化されています。
これは初めて見ましたが、しかしこの対策は本末転倒としか言いようがないです。M38ナットが緩むことが問題なので合って、シンクロ舳先が抜けるのはその結果なのですから。(何か他の理由もあったかもしれませんので想像の世界です)
5速メインギヤと摺動するハブ側のスラスト面はこのようにガリガリです。面修正で直れば良いんですが・・・。
だんだんばらしていますが、カウンターのこの部分に変なワッシャーが入っています。本来は1.8mmのもっと大きなワッシャーが入っているはずですが、それは欠落しています。これは完全に取り付けるべきパーツの勘違いですが、この間違いはカウンターの軸方向へのがたつきを生むので影響の大きな勘違いとなります。この部分のベアリングシムの欠落ですが今までにも何例か見ていますが、センタープレートの穴に張り付いていますので見落とししやすいのです。
各ギヤの中で最も消耗の激しいシンクロリングは1速のシンクロリングで、このようにカジリと共に、形状も台形になってしまっています。このシンクロリングは見たことがない種類のものの様な気がします。社外品などが有ったのだろうか?
そしてこれも初めての経験ですが、画像に見える十字穴付き皿ボルトが6本ともにショックドライバーで目いっぱい叩いたり、バーナーであぶったりしても全く緩みません。一体どんな回り止めしたんだろう。皿の淵をポンチ打ちするのは説明書どうりですが、これは気休め程度のものですので、ケミカルを使ったのだろうか。
私の経験範囲で、このボルトが緩んでいたという経験はないので、どんな理由でこのように完全ロックしたのか理由が想像できません。
仕方なく、こんな風に全部ドリルでもみ取ります。1っか所くらいは緩まずドリル揉みはたまにはあるのですが今回の様に6本全部は珍しいです。この緩み止めテクニックの方法、逆の意味で知りたいもんだ。
何とかネジのギリギリを狙ってドリル加工して全数リカバリーできました。
ここまでで現状把握は何とか終わりました。これからγバージョンでそれぞれの弱点を改善して仕上げてゆきます。