2018年5月12日
71A3分割スペシャルγ22
今回もkpgc10ですが、このS20エンジンの場合ミッションの選択肢はγに限られます。(ケンメリ2分割を使ったαも特例で有ります)ミッションの仕様の詳細はγシリーズの γ10付近で見ることができると思いますのでご覧になってください。
このシフトリンケージ周りにオイル漏れが多いということですが、たしかにオイルで湿り気味です。
分解してゆきます。
ミッション降ろして分解してゆきますがこのシールが純正とは違うオイルシールが使われています。径的なつじつまはあっているんですが、私の知る限りこのオイルシールは回転軸用のオイルシールですので、この回転しないで前後ストロークが長いストライキングレバーに使うことは疑問だと思います。
ここについては純正と同じものに戻すとともにオーリングを2重にするイーザ方式に変えてゆきます。
シフトリンクの部分のオイルシールは完全に硬化して四角形になっています。かなり長い間換えられてなかった感じです。
リヤエクステンションのオイルシールをはぐるとこんなでした。シールを外すときに不適切な工具でやった跡でしょう。なにも言いつけのようなことをするつもりはありませんが、私自身の身の潔白を明らかにしておくために記録します。
まだ一か所だけで傷はそれほど深くは無いので液体シール多めにして対処します。
リアエクステのエア抜きがすっ飛んでいたのでこれもイーザ方式で修理です。純正はプラスチックで弱いですので交換してゆきますが、純正がいい場合はまた変えてください。乗せたままでできると思います。
ゴムのキャップをただの蓋だと思って外さないでください。ゴムには小さな穴をあけてエア抜きできるようになっています。
シフトリンケージのアウトリガーを押しているシフトコントロールピンですがこれもオイル漏れのメッカですがこれまた2重シールで対処します。
シールも太目を使ったのでそのままでは組めませんので工夫が必要です。
と、外回りの記事が多いのですが今回の主目的はオイル漏れ防止でしたのでこのようになりました。
ミッション組み付け画像が出てきたので掲載します。
1速から組み付けに入っています。
2速、3速とスリーブとハブ
5速ハブがすこしかじり気味ですが修復できる範囲です。
バック側のハブスリーブです。
5速裏ニードルベアリング仕様構築
ギヤ部の組み付けが完成しました。
いつもの通りフルオーバーホールしました。ギヤ類は特に悪くなくシンクロも新しく1度開けられているようです。オーバーホールのやり方はγ10と同じ感じです。
オプションの5速裏スラストニードル仕様と1-2 3-4シフトフォーク3点支持を施しました。
ギヤ精度
エンドプレイ
0.15 0.22 0.16 --- 0.07
バックラッシュ
0.10 0.10 0.07 ---0.06
画像は回転試験をしていますが今回はオイル漏れ確認のためにかなり前上がりに傾けて試験しています。
この状態で漏れはなかったです。
2018年5月19日
71A スペシャル γ23
71Aが続きますが天草のSR乗りさんからミッションについてヘルプが有りましたので対応します。
このミッションはgtrやz432と同じ形式でというかこちらが源流となります。フロントベルハウジングやリヤエクステの長さが異なりますがギヤボックス部は共通です。
分解に入りますがこの時点ですでに嫌な予感がします。シフトリンクの支点にM6ネジで無造作に突っ込まれていますが、これではシフトがガタガタだしやること自体が問題外です。
フロントベルをはぐってあらあらら、カウンター側に見慣れないワッシャーのようなものが入っています。 私はこんなの見たことありません。
先の画像の相手側がこの画像の下側の円形の部分ですが中央部は凹んでおり上記の不思議なワッシャーを受けてはいないのでこのワッシャーはここで何の意味もなく回っていたことでしょう。
さらにこれなんですが円形の部分の中にワッシャーが2重に入っていますが、これも通常は外側の大きい方のワッシャーのみのはず。内側のは本当は前述のカウンター側のワッシャーのようで、「余ってしまったのでとりあえずここに入れといた」 てな感じです。
そしてこのオイルシールの打ち込みですが左側が深く、右側が浅く出っ張って打ち込まれていてかなり傾いています。ずさんなやり方ですね。
ミッションの連結固定ボルトは全数このような変な色のシリコーン系のふにゃふにゃブルブルしたものがこってりと塗り込まれています。後始末に困るのですが、なぜこんなでしょう。このボルト穴はミッションケースの内部とは貫通しいませんのでここからのオイル漏れ経路は無いのですが何をやっているのか分かりません。ボルト穴の周りは紙パッキンでぐるりシールされますのでしっかり組み付ければそこからの漏れもありません。
このM38ナットの処理はまあまあです。いつものタガネ攻撃も受けていません。
しかしこのカウンター5速ギヤの矢印部分は何かとこすれあってテカテカになっています。通常はありえないことですがこれではシフトの度に盛大な異音が発生していたことでしょう。 こんなになるためにはカウンターのスラスト方向の組み付けにミスがあったとしか考えられません。カウンターが軸方向に動いてメイン5速のシンクロ舳先裏と擦りあったようです。
こちらがメイン5速
明らかになにかとこすれています。
変だなと思って調べてゆくとこのカウンターギヤのベアリングの裏側にあるべき1.9mmシムが入っていませんでした。(訂正:ここのシムは後から出てきました。問題ありませんでした。)
しかし、フロント側のシムと言いリヤ側のシムと言い、ちっぽけな薄い鉄板のようなシムなんですがそれ等をあなどったこのミスの代償は大きいのです。どうもフロント側のシムがいい加減なシムと取り換えられていてそのためにカウンターギヤ全体が前側に1mm程ずれたことによるようですが、これがとんでもないことになります。
メインインプット 4速ですがシンクロが完全にズル剝けて金属地肌が出ています。
3速同じくシンクロが飛んでいますが今まで見た最高の削れ方と思います。
1速ですがシンクロは1周ぐるりと不自然に削れるとともにシンクロ舳先が完全に破壊されています。
これではこのギヤはほぼオシャカです。(=使えないものになること)
2速も1速と同じ状況です。
つまり先ほど出てきたカウンターベアリングの裏側ワッシャーの入れ忘れはここまでの惨事を招きます。カウンターが軸方向にガタがあるので5速のギヤが変なところでこすれあって摩擦抵抗を起こし、ギヤシフトの度にシンクロ作用を阻害するのでその状態で無理やりシフトすることになるので以上のようなことになると思います。
このミッションはもちろんどこかでオーバーホールの履歴があると思いますが、このミッションの成り立ちを理解して、丁寧な仕事をするところでないとミッションがかわいそうな結末となるという反面教師のような事例です。
組み立てに入ります。各部品をそろえていきます。
ズル剝けだった2速ギヤのシンクロ舳先も修復してゆきます。ギヤはいままでのギヤです。
シンクロ舳先はきれいにとがっています。
1速も同じくです。
弱点の5速裏にスラストニードルベアリングの構築です。もちろん純正ではなかった仕様です。
M38はダブルナットですらありません。シングルの加締め方式、しかも私の編み出した技サイドロックボルトで緩み撲滅。
ギヤ精度
1st 2nd 3rd 5th
エンドプレイ
0.05 0.15 0.22 ---0.02
バックラッシュ
0.10 0.13 0.07 ---0.04
1速のエンドプレイが少なめですが問題ないと思います。
オイル漏れの巣窟であるリヤエクステンションのオーバーホールです。
SR311時代までこのシフトコントロールピンにはオイル漏れ防止オーリングさえ設定されていませんでした。今回追加工でオーリング追加しました。
71Aの場合ここもよくある不具合で天狗の鼻=クラッチレリーズベアリングガイドが緩んでメインベアリングに連れ回りして激しいかじりが見られます。
今回は完全に連れ回りを防ぐために画像に見える小さなスプリングピンを追加工しました。あまりにも小さいので見えずらいですが円形部の上側です。これで絶対に回らないはずです。
これで最終段階でこのフロントベルをかぶせればミッションとしては完成です。そのあ簡易試験機
イーザナライザーで1時間ほど回転試験します。シフト感やオイル漏れが無いか、あとひどい異音が無いかなどもチェックします。
これで完成です。
2018年6月28日
71Aスペシャル γ24
県内 伊東市のOさんからのご依頼です。
kpgc10が続きますがいつものように作りこんでいきます。
71Aの部品もだんだん少なくなってきましたが手持ちの中で何とかやりくりしてゆきます。
こちらは2速関連部品。
このシンクロ舳先(ドグティース)の三角が丸くなってくるとアウトですので、できるだけとがっているものを探し出してきて使います。
こちらは1速
2速より少し丸まりが見られますがこれくらいは良しとしています。
3速 これもかなり良い部類です。
3速の部品
円筒状の内側にスプラインのあるスリーブも摩耗しているものが有りますのでやはり舳先がひどく丸まっているものは使いません。まだ私のところには中古品ですがある程度手持ち在庫が有りますのでその中でやりくりしてゆきます。
メインインプット=4速
これはかなり良い状態です。
5速部 舳先もとがって良好
5速裏には私のスペシャル スラストニードルベアリング受け仕様(純正はプレーンです)に変更してゆきます。
また緩みやすいM38ナットはこれまた私のスペシャル サイドロックボルト仕様でいきます。
ギヤ部アッシー完成
精度は
1ST 2ND 3RD 5TH
EP0.21 0.17 0.18-ーー0.05
BR0.08 0.09 0.10---0.05
申し分のない値です。
シフトフォーク 左から5速ーバック 真ん中 1-2速 3点支持スペシャル 右3-4速良好品
ケースの組み付けに入ってこの部品はシフトコントロールピンですがメンテナンスしてないとオーリングが劣化してオイル漏れしやすいところです。
今回はダブルオーリングにしました。これもスペシャルです。
ここも私のスペシャルオーリングダブル化
ダブルが多いですが、やってみると確かにオイル漏れは減少するように観察できるので必ずやるようにしています。
組み付けが完了して簡易試験機 イーザナライザーで試験しています。この時にはモーターの回転を15OORPMまで増速してその時の負荷電流量を見ているのですが抵抗が少ない場合は効率精度の良いミッションです。またどこかに問題があると電流量に異常が現れます。
試験は仕上げ前にやりますのでこの状態で紙パッキンや液体シールは一切使わず、組み付けボルト本数は半数にして軽く締めるだけ、ドレンボルトなども指で軽く締めているだけですがきれいにして組むとこの状態でも一切オイル漏れしません。オイルってなかなか漏れないもんなんですね。
この後もう一度ケースから分解して今度はシールやパッキン類もしっかりと使ってボルト類もトルクをかけて組み上げて仕上げたらその後もう一度試験機に乗せてオイル入れて出荷前の最終確認となります。
なんでこんな面倒なことすんだと思うかもしれませんが、スペシャル加工内容が大きいので時々試験で問題が出る場合があり何度かやり直すことが有りますが、その時にシールやパッキンを付けているとその養生や部品が無駄になりますので、その経験から選んで収斂してきた仕上げ手順ですが、ミッションって重いですね。
2018年7月9日
71Aスペシャル γ25
さらに71Aスペシャルγが続きます。
東京足立区のGTRオーナーからオーダーされました。
私が現在71Aミッションで行っていることは
スペシャルな部分はシンクロやベアリングやギヤ組み付けなどの主要部はもちろんのこと、
v,c,e-zaの71Aは
・5速裏スラスト二ドルベアリング仕様構築
・3点シフトフォーク1-2速
・同じく 3-4速
・M38メインシャフト緩み防止シングルナット+
加締めタイプ化
・クラッチスリーブガイド=天狗の鼻連れ回り防止
ノックピン
・ストライキングロッドオイルシール2重化
・シフトコントロールピンオイルシール2重化
など、細かいところまで 多くのスペシャル対策仕様がございます。(オプション扱いとなります)
細かいところはいつものとおりのやり方です。これは2速のギヤとスリーブ
今回は1-2速シフトフォーク3点支持に交換
前述のオプションで
・3-4速の3点支持
・天狗の鼻のノック止め
・コントロールピンの2重オイルシール
は問題なかったのでそのままで、
それ以外は全てオプション盛り込みました。
ギヤ部が完成しました。
精度は
1st 2nd 3rd 5th
EP0.14 0.15 0.20--ー0.04
BR0.15 0.18 0.05ーーー0.05
サードのバックラッシュが少なめですが問題ないと思います。
γ25完成です。
この後ミッション乗せ換えまでやります。
緊急事態!
今回は乗せ換えまでのパターンだったのでミッションも完成して乗せ換えの為オーナー様がご来訪となりました。ワンオーナーのgtrということでしっかりした印象が有ります。
素晴らしいコンディションです。
が、しかしミッションを見てみるとなんと2分割ミッションではないですか。いままで何とかこのミッションにしてくれないかというオーダーは何回かありましたが、すでにこのミッションが付いているパターンは初めてです。オーナー様がミッションが途中で変えられている様だという情報を言っていたのですがしっかりと確認しておくべきでした。これではプロペラシャフトが合わないので今度作っ71A3分割ミッションスペシャルγ25は取り付けできませんし、わざわざ3分割に戻す選択はオリジナル志向の方以外いないでしょう。
緊急事態です!
オーナー様とご相談してやはりこの2分割ミッションを降ろしてオーバーホール&スペシャル化する方向で決まりました。なんせ希少なミッションでその市場価格も半端ないですので、これを何とか直して使う方が今後のメンテナンス含めて良いでしょう。
今回作った71A3分割スペシャルγ25はどなたか他の欲しい方にお譲りすることにいたします。
このS20用2分割ミッションのフロントケースは今までも何回扱っているし、私自身も持っていますが、中身も入った一式というのは初めて見ました。中身は試走している時点ですでにわかりましたがシフト感が独特のポルシェシンクロでいわゆる240クロスですね。
分解してみて大きな損傷はないですが一か所だけメインシャフトのM38ナットはシングル加締めに設計変更されているにもかかわらず緩みが見られ0.5mmほど隙間ができていました。日産さんはこの後ここを逆ねじに変更してゆきますがこの緩みには相当難儀したようです。
これをオーバーホールする選択もありますが、せっかくの2分割ケースですかコンパチΩバージョンに変更することでシフト感や、強度性能、部品供給が一気に改善するのでそちらの方向で進めることになりました。 Ωミッションの詳細は こちら で進めていきます。
以上このページ内で記事的に内容が類似で重複しているところも多く見ている人は退屈かもしれませんが、実際に作業をしている私とオーナー様にとってはそれぞれが個別のものつくりの証で真剣勝負です。これをつまらないと思う方は読み飛ばしてください。
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