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ミッションオーバーホール
・その15~ ハコスカGTR 71A3分割
・その16~ TSサニー用 56Aレース用
2025年7月6日
ハコスカGTR 71A 3分割 オーバーホール OH15
ハコスカGTRの71A3分割ミッションのオーバーホールを依頼されました。
外観はかなりきれいです。各部もしっかりしているように見えます。
どんどん分解してまずはどこを直す必要が有るか調査する現状把握を行います。
リヤエクステンションを取り外しましたが、この時点ですでにかなり異常な点に気が付きます。
ギヤ部を取り出しました。
この状態で見て2速のポルシェシンクロは完全にダメであるように見えます。シフトフォークは健全です。
メインインプットのこのオイルシールが当たってくる部分ですがすでにかなり深く摩耗痕ができていますが、これは丸ごと交換するしか手立てがないので、今回はこのまま行くしかなさそうです。シール位置を少し工夫してみるしかないでしょう。
メインシャフトのM38ナットは緩んでいませんでした。ダブルナットでタガネ攻撃は無しで、回り止めワッシャーでカシメてあります。
しかし5速メインギヤのこの部分を見ると、明らかにM38ナットが一度緩んだ履歴があることがわかります。シンクロ舳先の裏側歯ギタギタですがここは再利用することになります。
おそらく前の前の段階でこのM38ナット緩みが起こって一度オーバーホールして現在に至るという事だと思います。
メインギヤの先ほどのカジリの相手はこのカウンター5速であることがわかります。テカテカに光っています。
この様にしてみるとどうしてこうなるかがわかると思います。右側のM38ナットが緩んで後ろに下がることにより右側のカウンタギヤ側面にメイン5速のシンクロ舳先が干渉するようになります。このM38ナット緩みがどんどん進んでゆくとしまいには5速メインギヤはシンクロ舳先だけ残して勘合スプラインから抜けてしまいます。そうなると5速が空回りしてギヤ抜けしたようになります。そこまで行かなくてもあちこち無理がきて壊れてしまいます。そのようになっている例をたくさん見てきました。それほど71Aのこの部分は弱点なのです。
5速の裏側もこんな感じでこすれた跡が出ています。
しかしギヤ欠けしなかっただけラッキーでした。
上側が1速ですが、やはりシンクロCリングはダメの様です。
2速もシンクロCリングもダメです。
3速ですが少しシンクロCリングの摩耗が出ていますがこれくらいなら裏返しで何とかなると思います。しかし、このシンクロCリングはあまり品質が良くなく表面がざらざらしています。どうもシンクロCリングのつくり方なのか同じ部品なのですが2種類あるようです。もちろん表面にきれいに摩擦材が付いているタイプがベターです。
4速メインインプットです。
このシンクロCリングは変形が出ているだけなので裏返しで良くなると思います。
以上の現状調査から見ると
・シンクロCリングは1速と2速は交換が必要
・5速裏ニードルベアリングの対策が必要(71Aはこれはもうマストアイテムといえると思います)
・後は通常のベアリングやニードル全とっかえとオイルシール・オーリング・パッキン全交換での
オーバーホールとなります。
後から追加でセルスターターモーターの取り付けネジが一か所破損していることがわかりました。
組み立てに入っています。
まずは1速からポルシェシンクロCリングの交換です。
他必要な交換部品をそろえてゆきます。
こちらが今まで使っていたシンクロCリング・摩耗してピカピカツルツルになっています。
こちらが交換する純正新品のシンクロCリング今では入手困難パーツです。
他のギヤも同じようにシンクロCリングを交換したり裏返ししたりしていきます。各ボールベアリングとニードルベアリングは全交換です。
私はポルシェシンクロの場合はハブとスリーブには特別なハンドワーク作業を加えて今後の稼働でのシンクロリングの摩耗を軽減し、スリーブの傾きを抑えてスリーブスプライン飛びを起こしにくいようにしています。
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 5TH
エンドプレイ 0.10 0.13 0.09 ーーー 0.18
バックラッシュ 0.11 0.13 0.05 ーーー 0.20
まずまずの値だと思います。
ケース側の修理加工に入っています。
いつもの通りオイル漏れの頻発箇所のストライキングロッドのオーリングは2重にします。
コントロールピンのオーリングもこの通りもともと丸い断面だったものが四角くヘタッテしまっています。これではオイル漏れを防ぐことはできません。
オーリングを交換した状態・本来ならこれくらいの丸まりが有ります。
私はγバージョンではこれを上下2段にする2重オーリング化もやっております。
ケースに組付けに入っています。リヤエンドのベアリングを打ち込みます。このベアリングはケースに組んでからでないと打ち込みができません。
オイルシールを打ち込んでいます。
プロペラシャフトと接続するリヤフランジコンパニオンを取り付けM27ナットで締めこんで割ピンで止めます。このM27ナットを力任せに目いっぱい締めこんであるミッションを時々見ますがそれは無意味であるどころか害が有ります。今までの画像で分かる通りこのナットの向こう側の締めこむ先は1.2mm厚のEリング一枚と薄いワッシャーのみですのであまり締めこむと向こう側が変形してしまいます。
ここはある程度締めたら割ピン穴が揃うところを加減しながら締める、場合によっては緩める側で合わせる場合もあります。割ピン留めなのでこれで大丈夫です。(オイル漏れがある場合は他の対策が有ります)
ここまで来てフロントベルハウジングのセルモーター取り付けネジがズル剥けていることに気が付きました。最初に気づくべきだった。ここまでくるとラジアルボール盤に上げての加工ができませんのでハンドドリルでのヘリサート加工を行う事になります。今では超貴重なハコスカGTR S20エンジン用ミッションフロントベルハウジングに素手で立ち向かうのですから失敗したら大変なことになりますので超ビビります。
こんな感じでネジがほとんどズル剥けています。
ハンドドリルでネジ穴を拡大加工してからヘリサート用タップ加工(これも傾いて加工すると大変なことになります)をして、この後ヘリサートを特殊工具でインサートしてゆきます。ヘリサートはステインレスの特殊なスプリングの様なものですので、この加工をすると今までのアルミ地のネジよりも強度が上がる点は良いことです。私はサーキット用など特殊な使用環境の場合はエンジンでもミッションでもネジ強度を確保するために積極的にこのヘリサート加工をする場合は有ります。
ネジを仮付けしています。このミッションケースのネジはM10ピッチ1.5というネジですので、M10ピッチ1.25やピッチ1.75と間違えないようにしなければなりません。
組み立て完了して回転試験です。
良好でした。2250rpmまでぶん回しました。