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2025年9月5日
R192デフオーバーホール R49
Z432〇のデフR192のオーバーホールを依頼されました。丸の部分は書いてしまうとどの車かわかってしまうので書きません。それでもわかっちゃうか・・・
長く以前からの知り合いのオーナー様で、71Aミッションを以前にオーバーホールしているのですが今回はデフとなります。
画像はすでに分解して組み立てに入るところです、入ってきた時の画像を撮り忘れました。
ギヤ比としては4.444が使われています。
LSDは日産純正でこの個体は画像中央のところに大きなネジが食い込んだような跡が全周4か所ありますが、これは製造時にチャッキングした跡だと思います。
LSDカム角度ですがいかにも効きそうな角度
ニスモによくある角度です。
正転側刃当たりはトー側(内側)に寄り気味でこれはピニオンシムが足りないことを示しています。
こちらは逆転側で、こちらもやはりピニオンシムが足りないことを示しています。
現状でのセッティングデーターを確認して今後の修理の参考とします。
バックラッシュは0.12~0.15とほぼ理想的な値でした。現状の状態でバックラッシュ調整はしっかりやっていたものと思われます。
オーバーオールプリロード(ピニオンとサイドベアリングの状態)はほぼ”0”でした。これは各ベアリングが摩耗していることを示しており、特にピニオンテーパーベアリングが摩耗している場合が多いです。
プリロードが無い状態でバックラッシュを調整してもすぐに調整が崩れてしまうと思います。
刃当たりは、調整シム厚が足りない傾向を示しています。ベアリング摩耗もこれに影響しているはずです。
リングギヤアッシーを取り出しました。
LSDのイニシャルトルクを測っています。
5.5Kgを示しています。これはノーマルR192で有れば通常の値ですが後から分解してみてわかるのですがこのLSDは通常4枚構成のフリクションディスクを6枚に増やす改造をされていますので、チューニング次第では本来の性能である10kGくらいに調整が可能なはずです。
ピニオンまですべてばらばらにしました。
ピニオンリヤベアリング
横スジが多いのが気になります。ボツボツと小さな点状の陥没跡が見られます。ひどくは無いですがある程度寿命の感じです。
ピニオンフロントベアリング
こちらもリヤと同じような状態です。
LSDを分解して行きます。
ここでこのLSDがスポーツバージョンである4ピニオン仕様であることがわかりました。4ピニオンはスポーツオプションだったのでしょうか? R192としては殆んどが2ピニオンである場合が多いです。
これでプレート構成が6枚であることがわかります。
純正ノーマルR192では4枚構成なのでそこに6枚を入れることは無理なので大幅な改造がされているはずです。プレートそのものはまだカジリは出ていないのでこのまま使えるレベルだと思います。
左側のプレート組を調べたらこのようになっていました。こちらは左側ですが左から2枚目3枚目のプレートが同位相(内爪どうし)で合わせてあるのですが私はこのようには組みません。これは人によっていろいろ組み方があると思いますのでこれで良いとは思います。
しかし右側はこのように組んであり、左側と対称ではないのであまりよろしくは無いと思います。
さらに右側(外側になる)から4枚目と5枚目が同位相に組まれていますのでここは一枚の外爪が配列されているのと同じになりますので摩擦力がスポイルされてしまいますので、左より右側の方がlsdの効きが弱くなることになります。そういうセッティングなのかもしれませんが、あまり機械部品としてはバランスが良くないのではないかと思います。
結果としてイニシャルが6枚構成にしては低いという測定結果と一致しています。
プレートをよく見てみるとこのように爪の横腹が変形していて、つぶれて平面側にまでダレこんできています。ほぼ全爪がそのような感じです。これはある程度は仕方ないことですが、プレートの代品が枯渇しているR192ではなるべくこれは避けたいことです。
しかもプレート厚みは特殊でニスモオプションと思われます。
プレート内爪と噛みあうパーツはこれになりますが段付き摩耗が出ています。
ここはできる限りハンドワークで研磨して爪に食い込んでいた切り欠き角の部分にR加工を施しておきます。
本来はこの部分は製造時点で研磨加工をしておきたいところだし、表面状態にしても高周波焼き入れぐらいで強化しておきたいところです。
そして外爪はというとこのように設計されています。
LSDケースのスプライン部に右側の八つ橋のように見える補強プレートを介して外爪プレートを抑えているのですが、ここにこの八つ橋補強プレートが設定されているのは日産R系ではこのR192だけです。R180やR200はLSDケースで直に爪を受けるのでケース側がグダグダ変形してしまいます。ケース全体を高級鋼材で作ればこの変形をある程度防げるのですがそれでは製造原価が高くなってしまうし、ましてや無垢材からは削れないので鋳鋼の様な感じで作られたと思うのでかなりもろい材質であると思います。
したがってこのR192の設計は私はすごく合理的な設計だなと思うのですが、なぜかこれを使わなくなったのは何か別の理由があったのかな・・・。
この八つ橋は今でいう高張力鋼板の様な材質で作られていて非常に硬いのですがそれでもかなり経年変形します。また硬いが故に外爪側を攻撃変形させるという一面もあります。この端っこの縦筋部分の面の造りが荒いのも気になります。上の逆折り返しの棚のようになっている部分はLSDプレートアッシイ時上下から抑えておく役目をするのですが、無理をすると簡単に割れて欠けてしまいます。それくらいこの八つ橋はカチンカチンなんです。
八つ橋をできるだけハンドワークで面修正して、ガリガリの縦筋もできるだけR付けしてきれいにしてゆきます。深い段付きはもうこれ以上の修正が無理です。
プレートの組み方(左側セット)はこのようにしました。右側セットはこの対称組となります。
内側から
内爪ー外爪ー内爪ー外爪ー内皿ー外皿
内側1枚目を外爪から始める組み方もありますがその場合大事なLSDカムケースを摩擦することになるのでそれは避けて内爪にして摩擦しないで保護する状態にします。しかしこの場合一番外側の外皿がLSDケースを押すのでそれを避けるために皿セットを中央側に挟む組み方もあるようで、これは人によってまちまち、工夫が現れるところです。
で、イニシャルは10Kgと出ました。かなり効きが強くなる方向です。(これはオーナー様と相談して色付けしてゆくところです)
これだと車庫入れ切り返し等でプレートチャタリング音や抵抗がかなり出てくる設定となります。
この設定でコーナー立ち上がりではすごく安定性が増す状態になると思います。
LSDを組みました。
リングギヤをとりつけます。ボルトは脱脂してネジロックを使いながら組み立てます。
サイドベアリングを打ち込みます。
デフケースに入れ込みます。
ギヤ比4.444のリングギヤはギヤ外径も大きめになるのでこのケースに入れ込む作業がすでに難関となります。そのまままともに入れようとしても入りません。それで巷ではデフケースの両サイドの造形部が干渉するからこれを削らないと分解できないというような中途半端な情報も流れるのですが、それでは最初はどうやって組んだんだという素朴な疑問がわくのです。
このリングギヤをくぐらせるコツは2段階組み立てにあります。入れ込み側はある回転方向から入れ込んで、そのあと中間で回転方向をもう一度動かして最後の干渉部をクリアーします。ケースは削らなくても入りますよ。
正転側刃当たり
良い当たりが出ていると思います。
ここまで来るのに何回も全バラやる直しています。
逆転側です。
まずまずです。
最終組み立てに入ります。
フロントボールベアリングを打ち込んで大きなCリングで抜け止めしています。ここもR192ならではの組み立てです。この後フロントフランジを取り付けます。ここもやはりフロントフランジがこのボールベアリングで専用でガイドされて組み込まれます。好ましい設計だと思いますが、ここもこの後のR200、R180の世代から省略されてしまいます。(ボールベアリングは有りますがピニオンシャフトをガイドしているだけでフランジはスプラインで勘合するだけとなります)
フロントシールの打ち込みです。
この後フロントフランジを打ち込んでM10ボルトで締めこみ固定します。
サイドフランジをもう一度(もう何回目かわからないくらいですが)取り外してサイドボールベアリングを打ち込んでここもCリングで抜け止めします。このサイドボールベアリングがあるところもR192だけの設計仕様です。R200、R180ともにこのベアリングは省略されています。サイドオイルシールも打ち込みます。
完成して回転試験に入っています。
2000RPMぐらいで1時間回転させます。これでもかなりデフボディーは熱を持ってきて手で触れないくらいになります。結果は良好で、これで完成となります。