71A,71B,71C.コンパチC,弱点改善,改造,ミッション強化,ギヤ比変更,クロスギヤ組,シンクロ交換,ポルシェシンクロ,ワーナーシンクロ,ダブルシンクロ,TSサニー・56A
ミッションオーバーホール
・その15~ ハコスカGTR 71A3分割
・その16~ TSサニー用 56Aレース用
2025年7月9日
TSサニー用 56Aサーキット用
OH16
富士スピードウェイで私のサーキットS31Zでアタックしに行ったとき、駐車場で声をかけてくれたレーサーさんとお話ししていて、このTSサニー用の56Aの修理を依頼されました。
外観からすでに分かる通りスピードギヤは無し・バックスイッチは無し・センタープレートはアルミビレット削り出し強化品等完全にTSレースの為に作られたものです。すごく軽く片腕で持ち上げられそうです。
故障内容としてはシフトすると意思に反して別のギヤにシフトしてしまうというものです。これから分解して原因をチェックしてゆきます。
リヤエクステンションを取り外すと矢印の部分のスラストワッシャーが何か変です。
裏返すとこのように銅合金のメタルがガジガジにかじっています。ほかはあまりダメージが見られないので過去のブローの名ごりなのかもしれません。
シャフトの向こう側のメタルも同じくガジガジ
このメタルは現在日産部品からはもう出てきませんのでこれを修復するしかなさそうです。部品どりミッションが有ればもっとなんとかできるのですが。
フロントベルハウジングのなかのフロントカバーですがこれもビレット削り出しの強化品です。
取り外すと内部にこのエンドプレイ調整用シムが入っているのですが、なぜかこのように粉々になった鉄粉みたいなものを噛んだ跡が見られます。
ギヤを取り出しました。
やはり矢印の部分の変形が気になります。
こんな感じでギヤ歯に何かが食い込んだ跡が見られます。ギヤ欠けには至っていないので使う事に問題は出ないとは思いますが、ダメージがどこまで進んでいるか心配ではあります。
シフトフォークを取り出しました。ここで今回の最も問題点となっているシフト不良の原因がわかりました。
後ろ側2-3速のシフトフォークをシフトロッドに固定しているスプリングピンがこのように粉々になって出てきました。前側4-5速のシフトフォークについてはもっとひどくピンが粉々になって出てきました。これではシフトフォークを固定できず、シフトフォークがぐらぐらと動いていたことでしょう。
シフトフォークが取り付けられていたシフトロッドを見ると画像の様に打ち込み穴以外のところにたくさん丸い打こんがあります。これはシフトフォーク固定ピンを打ち込むときに位置を間違えた時にできた打こんで間違いないと思います。それもたくさんありますので何回も穴の無いところにピンを打ち込もうとしたのでしょう。その結果スプリングピンには大きなストレス(ヒビ)が発生し、後から修正して正しい位置に打ち込んだとしてもそのストレスの部分からスプリングピンは破断に至ります。まさに今回起こったシフト不良の故障内容そのものです。そしてこのような間違いを起こす原因はシフトフォークの前後を間違えて組んだ為だと思います。
ただこのピンは元々強度不足が有ったようでこのように打ち込みミスしなくても破断している例が有ります。
使い方によってはここがΦ4のスプリングピンでは無理かもしれません。
ギヤを分解しました。
メインインプット(5速)はかなりシンクロCリングが摩耗して広範囲で金属地肌が出てきています。このようになるとシンクロが滑ってしまうのでシンクロ作用がすごく弱くなってしまいます。
4-5速ハブスリーブです。
外周側のシンクロスリーブが各ギヤのシンクロ舳先と噛みあうのですが、この画像の様にほとんど全歯がこのように丸まってしまっており、このようになるとシンクロ舳先が噛みあう事が出来ずにはじかれてしまいます。何とかしなければなりません。
4速ですがシンクロCリングは少し摩耗が見られます。通常ですと交換ですが、56Aのシンクロは私は入手ができないのでこれも何とかしのがなければなりません。
4速のこの作りを見ると特殊なつくりで純正の出来とは異なります。アフターメーカーのクロスギヤの様な物では無いでしょうか。
3速です。これもほぼ4速と同じ状態です。
そしてこれは2速ですが、このギヤはかなり問題ありです。矢印の範囲全部ほぼ1/3周がシンクロ舳先(ギヤが繋がる部分)が欠損しています。
交換部品が無い場合はこれを何とか使うしかなくなります。
2-3速のハブスリーブ
スリーブは4-5速スリーブよりもっとひどく舳先は球状に変形摩耗しています。
カウンターですがこれも問題ありです。
カウンターにはこのような打こんが沢山あります。ギヤ歯が欠けていないので何とか使う事はできそうですが、いつ欠けが出てもおかしくない感じです。過去にブローした履歴が有るのでは、おそらくメインインプットのインプットギヤが過去にブローしたのでは。
アルミビレット削り出しの強化センタープレートです。
このカウンターベアリング穴の淵の変形や、ベアリング穴底のガリガリした様子は何か起こった感じです。
ここから修理に入ります。今回は各ギヤやハブスリーブをまとめて全部まず修理してゆきます。
各ギアのシンクロ舳先はお団子のように丸まっていましたので、それらをこのように全歯ハンドワークでとがらしてゆく作業を行います。画像の様に三角断面を作ることが目標です。
こちらは4-5速のハブスリーブ
スリーブの舳先もこのようにお団子になっています。
これでは機械部品とは言えないです。通常ですと即交換ですが、このサニーGX5のシンクロスリーブは新品はもちろん手に入りませんし、中古ですらなかなかお目に掛かれません。
仕方ないので最終手段でハンドワーク致します。このような感じでお団子からあるていど三角舳先らしきものが感じられるまで成形していきます。
こちらは4速ですが同じような状況です。
この2速はもうどうしようもないレベルですが、これしかないのでできる範囲で仕上げてゆきます。
2-3速のスリーブも同じく仕上げます。
このスリーブは矢印部分がすでにカジリかけており、スプラインの横腹にバリ状の変形が見られます。これがひどくなるともちろん舳先がつかえてギヤがかみ合わなくなりますので、ここも全歯修正が必要です。
ギヤ類をハンドワーク致しました。
カウンターギヤ歯先がボコボコになっていたのでそこも仕上げてゆきます。おそらく過去のブローの後遺症であると思います。
交換する消耗部品をできるだけ集めます。
今回は図の赤丸印部品が何とか手に入りました。純正で入手できないものは汎用品を探して対処していますが、それ以外は全滅でした。
3速から組んでゆきます。メインシャフトニードルベアリングは入手できたので交換します。
4-5スリーブとしてはいろいろ観察して結果的に状態が良い方を2-3速に回すことにして入れ替え戦を行います。
かえす返すもこの2速はこの状態で本当に大丈夫なのだろうか?しかし交換部品がない以上ダメもとでやってみるしか無いか。
各ギヤともにメインニードルベアリングは交換です。
ここから強化センタープレートへの組付けです。
ざらざらだったカウンターべリングの受け座をある程度仕上げました。
こちらはメインシャフト用のセンターベアリングですが、このベアリングがなんと今は出てきません。外径が一般的なベアリングよりは小さく汎用品もなかなか合いません。今回はお取引のあるベアリング商社へお願いして特別に入手いたしました。10個まとめてオーダーしたので他に欲しい人がいましたらお譲りいたします。部品としては#65の32273G1000
となります。内径25に対して通常は外径62なのですが、このベアリングは外径が58となっています。厚みは16です。
メインインプットボールベアリングは今回このセミシールドベアリングを使います。こちらの方がアクシデントに強いはずです。
メインインプットのパイロットニードルベアリングを交換します。かなり重要なベアリングです。
そしてこのスラストベアリングなのですが、56Aはハブとメインインプットの間にこのスラストベアリングを入れてクリアランスセットしています。ここは71Bや71Cとは異なるところです。また、このスラストベアリングにはメタルタイプのものと画像のスラストニードルタイプのものが有り、今回はスラストニードル(もともとこちらのタイプだった)を選択して交換します。
左がメタルタイプで右がニードルベアリングタイプ
カウンターのセンターベアリングはこのシールドタイプボールベアリングに交換します。通常はオープンタイプです。
1速とバックアイドルギヤです。
金色のスラストメタルが両側ともにガジガジでしたがこれは部品が出てこないため面修正しました。
ニードルベアリングも出てきませんので流用です。
かなり状態は悪いです。何とか面だししてそれでも状態が良い方を1速側に入れ替えて組みました。実はこれは汎用品で使えそうなものを探し出したのですが、あまりにもチャレンジ―なので今回は不採用です。
ギヤ組が完了です。
ギヤ精度
1ST 2ND 3RD 4TH 5TH
エンドプレイ
0.05 0.13 0.05 ーーー ーーー
バックラッシュ
0.13 0.22 0.18 0.14 ーーー
あちこちバラバラですがまずまずの値ではあります。
ここでギヤ比について
歯数は 1ST 2ND 3RD 4TH 5TH
メイン 34 28 27 25 23
カウンター 15 18 21 23 25
ギヤ比 2.464 1.691 1.398 1.181 1.000
シフトフォークの組付けに入ります。
今回の最も直接的な不具合の原因であるシフトフォーク固定スプリングピンですが
右がいままで使っていたのと同じΦ4のピン
左が強化タイプのΦ5スプリングピンです。
大分大きさが違うのです。
シフトフォークを追加工してΦ4の今までのピンを入れるとこんなに違います。
シフトロッドも同じようにΦ4→Φ5に変更してゆきます。
取り付けたところです。Φ5にするとこのように2重ピンにすることができるのでさらに強化されることになります。2-3速フォーク、4-5速フォーク共にΦ5ダブルピン加工を行いました。
シフトフォークを組みました。
1速-バックのシフトロッドはリヤエクステ側にしかなく、リヤ側はエクステ側で受けています。その受け穴の外側にバックランプスイッチが設けてありシフトロッド端面が直接スイッチを押すという合理的な設計だと思います。
リヤエクステンションですがこちらはどうにも手が出ませんでした。左側に見えるストライキングロッドは分解ができませんでした。71Bなら何回も分解しているのですが56Aは専用治具を作ってないので無理でした。また真ん中に見えるメインシャフトリヤニードルベアリングは手に入らず交換できません。
フロントベルハウジングはカウンターフロントの矢印部に変なカジリ変形がありますので修正です。
真ん中のカウンターフロントニードルベアリングを打ち抜いてから、前述のカジリ部を修正してゆきます。
カジリ変形部を除去仕上げしてから真ん中のカウンターフロントニードルベアリングを打ち換えて、金色の受けメタルを新品交換でセットしています。この後ギヤセットをここへ入れ込んでいきます。
リヤエクステのオイルシールにはこのように2種類あります。今回は最初に付いていたものと同じ大サイズ(80)を打ち込みます。
リヤエクステの最後部のプロペラシャフトが刺さるところのメタルですがある程度荒れはありますがまだメタル消滅までには至っていません。
シフトコントロールのこのスプリングは通常は外側の一重しかないですが、このミッションは前からこのように2重にして改造されています。このようにするとシフトレバーの左右のクリック感が大きくなります。
このミッションはローバックですので左側1速ーバックに振るときにこのクリック感が出ます。また、1速ーバック側への横振りに抵抗が大きくなるので2速から3速へのシフト時に、誤って1速に入ることを防ぎやすくなると思います。
ここの蓋ですが前はこの右側の樹脂製が付いてきたのですが強度不足の様ですので左側の金属製に変更してゆきます。少し重量が増えますがこのほうが確実と思います。
そしてフロントベル内のフロントカバーですが、純正はもっと薄く強度が無い感じでしかもアルミでできていますが、このミッションではこのように肉厚で改造されていて、しかもこれが無垢の合金鉄から削り出されているようです。ジェラルミンでも良かったのではないかという気がしますが・・・。
フロントベルハウジング内へ取り付けました。オイルシールと大きなオーリングは新品交換で組んでいます。
ケースに組んで完成です。
仮にシフトレバーを取り付けてシフトのテストはしましたが回してない状態でのテストでは普通にシフトは問題ありません。
56Aは私の作った71B用の回転試験機に取り付けができないので回転試験は無理でした。
これで完成となります。
後はオーナー様がTSサニーに取り付けて富士スピードウェイでの実戦テストでどのような結果になるかという事になります。